太陽から遠く離れた場所で生まれた氷天体や彗星にはアンモニウム塩のような窒素化合物が大量に貯蔵されています。このような窒素を含む固体は生命の材料物質としてとても重要だと考えられていますが、地球軌道の地域に輸送される証拠は見つかっていませんでした。
松本徹 白眉センター/理学研究科特定助教、野口高明 理学研究科教授、三宅亮 同准教授、伊神洋平 同助教、治田充貴 化学研究所准教授らの国際共同研究グループは、地球の近くに軌道をもつ小惑星リュウグウの砂を電子顕微鏡で調べ、砂のごく表面が窒化した鉄(窒化鉄:Fe4N)に覆われていることを発見しました。窒化鉄は、磁鉄鉱と呼ばれる鉄原子と酸素原子の鉱物の表面で見られます。本研究グループは、氷天体からやってきたアンモニア化合物を大量に含む微小な隕石がリュウグウに衝突して、磁鉄鉱の表面で化学反応が起こり、この窒化鉄が形成したと考えました。小惑星の表層では、太陽から吹くイオンの風(太陽風)の照射などによって磁鉄鉱の表面から酸素が失われていて、アンモニアと反応しやすい金属鉄がごく表面に形成しています。このため、磁鉄鉱の表面ではアンモニアに由来する窒化鉄の合成が促されたと推測しています。この微小隕石は太陽系遠方の氷天体からやってきたかもしれず、これまで気づかれてきたよりも多くの量の窒素化合物が太陽系の地球付近に輸送されて、生命の材料となった可能性があります。
本研究成果は、2023年11月30日に、国際学術誌「Nature Astronomy」にオンライン掲載されました。
「世界中でリュウグウ試料の分析が行われる中で、砂のごく表面の鉱物に注目したユニークな研究を行うことができました。窒化鉄の形成といった小天体の表面で進む現象は、地球に飛来する隕石では分からず、リュウグウから直接的に砂を回収したことで初めて明らかになりました。今後もリュウグウの砂の表面に注目することで、太陽系の進化や生命の起源についての研究が進むことが期待されます。」(松本徹)
【DOI】
https://doi.org/10.1038/s41550-023-02137-z
【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/287075
【書誌情報】
Toru Matsumoto, Takaaki Noguchi, Akira Miyake, Yohei Igami, Mitsutaka Haruta, Yusuke Seto, Masaaki Miyahara, Naotaka Tomioka, Hikaru Saito, Satoshi Hata, Dennis Harries, Aki Takigawa, Yusuke Nakauchi, Shogo Tachibana, Tomoki Nakamura, Megumi Matsumoto, Hope A. Ishii, John P. Bradley, Kenta Ohtaki, Elena Dobrică, Hugues Leroux, Corentin Le Guillou, Damien Jacob, Francisco de la Peña, Sylvain Laforet, Maya Marinova, Falko Langenhorst, Pierre Beck, Thi H. V. Phan, Rolando Rebois, Neyda M. Abreu, Jennifer Gray, Thomas Zega, Pierre-M. Zanetta, Michelle S. Thompson, Rhonda Stroud, Kate Burgess, Brittany A. Cymes, John C. Bridges, Leon Hicks, Martin R. Lee, Luke Daly, Phil A. Bland, Michael E. Zolensky, David R. Frank, James Martinez, Akira Tsuchiyama, Masahiro Yasutake, Junya Matsuno, Shota Okumura, Itaru Mitsukawa, Kentaro Uesugi, Masayuki Uesugi, Akihisa Takeuchi, Mingqi Sun, Satomi Enju, Tatsuhiro Michikami, Hisayoshi Yurimoto, Ryuji Okazaki, Hikaru Yabuta, Hiroshi Naraoka, Kanako Sakamoto, Toru Yada, Masahiro Nishimura, Aiko Nakato, Akiko Miyazaki, Kasumi Yogata, Masanao Abe, Tatsuaki Okada, Tomohiro Usui, Makoto Yoshikawa, Takanao Saiki, Satoshi Tanaka, Fuyuto Terui, Satoru Nakazawa, Sei-ichiro Watanabe, Yuichi Tsuda (2024). Influx of nitrogen-rich material from the outer Solar System indicated by iron nitride in Ryugu samples. Nature Astronomy, 6(2), 207–215.