鈴木洋平 農学研究科博士課程学生、宋和慶盛 同助教、北隅優希 同助教、白井理 同教授、加納健司 産官学連携本部特任教授、牧野文信 大阪大学招へい准教授、宮田知子 同特任准教授、難波啓一 同特任教授、田中秀明 同准教授らの研究グループは、Gluconobacter japonicusという酢酸菌由来のフルクトース脱水素酵素(FDH)に関する構造解析に成功し、本酵素が有するユニークな触媒反応において重要な役割を担うアミノ酸を特定するなど、酵素反応メカニズムの詳細を明らかにしました。
FDHは酢酸菌の呼吸鎖電子伝達系を構成する膜結合型タンパク質で、電極を基質として認識することで「直接電子移動(DET)型反応」という非常に珍しい反応を実現できます。本反応は生体・環境への適合性が高く、生体物質の検出に適した理想的なバイオセンサ(第三世代型バイオセンサ)としての応用展開が期待されています。FDHはDET型モデル酵素として世界中で注目されてきた一方、そのDET型反応機構は未解明でした。今回、クライオ電子顕微鏡観察及び単粒子像解析を実施し、2.5 Å(オングストローム)の分解能でFDHの構造解析に成功しました。本結果と電気化学、遺伝子工学の手法を組み合わせることで、本酵素の電極反応部位を特定し、酵素内のトリプトファン(Trp)という芳香族アミノ酸がDET型反応を促進していることを明らかにしました。さらに、数理モデルでFDHのDET型反応を解析し、Trpによる電子移動促進効果を定量的に評価しました。本成果は、FDH及びその類似酵素における世界初の全体構造報告例であり、生体触媒を用いた新たなバイオデバイスを社会実装する上で、学術的かつ社会的な波及効果が期待されます。
本研究成果は、2023年10月12日に、国際学術誌「ACS Catalysis」にオンライン掲載されました。
「自然が持つ優れた機能と人間が培ってきた知見を組み合わせることで、現在直面している社会的課題の解決につながる新しい技術を創出できると考えています。今後も、大きな可能性を秘めた酸化還元酵素の研究に取り組み、持続可能な社会の実現に貢献したいと思います。」(鈴木洋平)
「FDHがDET型酵素として初めて報告されたのは1991年で、30年以上不明であったFDHの立体構造を世界で初めて解明できたことに大きな喜びと興奮を感じています。DET型反応を実現できる酵素に関する基礎研究は、持続的な未来社会を構築する上で、学術的にも社会的にも大きな意義を持ちます。自然が創り出した高度な触媒機能を利活用することで、人類と地球を豊かにする革新的な技術を実現し、研究成果の社会実装に取り組みます。」(宋和慶盛)
【DOI】
https://doi.org/10.1021/acscatal.3c03769
【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/285571
【書誌情報】
Yohei Suzuki, Fumiaki Makino, Tomoko Miyata, Hideaki Tanaka, Keiichi Namba, Kenji Kano, Keisei Sowa, Yuki Kitazumi, Osamu Shirai (2023). Essential Insight of Direct Electron Transfer-Type Bioelectrocatalysis by Membrane-Bound d-Fructose Dehydrogenase with Structural Bioelectrochemistry. ACS Catalysis, 13(20), 13828–13837.