※ 「詳しい研究内容について」(PDF)を一部修正しました。(2023年9月7日)
若杉昌徳 化学研究所教授、大西哲哉 理化学研究所部長、栗田和好 立教大学教授、須田利美 東北大学教授らの共同研究グループは、不安定原子核(不安定核)の静止標的を用いた「スクリット法(SCRIT法)」による高エネルギー電子散乱実験に初めて成功し、不安定核の陽子分布が直接決定できることを実証しました。
本研究成果は、理化学研究所仁科加速器科学研究センターにおける重要なプロジェクトの一つで、新しい原子核モデルの構築につながるものと期待できます。
不安定核の陽子分布は、構成する陽子の波動関数が重ね合わさったものであり、不安定核の特異な内部構造を反映する重要な物理量です。この分布を直接観測できる電子散乱実験が長い間待ち望まれてきました。従来の電子散乱の手法では、1020個もの不安定核を使った静止標的が必要だったことから、共同研究グループはSCRIT法を開発し、2017年に微少量(107~108個)の原子核による電子散乱実験が可能なことを実証しました。
今回、共同研究グループは不安定核をほぼ100%パルスビームに変換する技術を開発し、SCRIT法により不安定核静止標的を実現し、不安定核の電子散乱実験を成功させました。本実験では、電子ビームをウラン標的に照射して生成した約107個の不安定核セシウム-137(137Cs:陽子数55、中性子数82)を電子蓄積リングSR2内のSCRIT装置に入射しました。入射不安定核はSCRIT法により浮遊静止標的として働き、約200~300mAの周回電子ビームを使って電子散乱事象を起こしました。
本研究成果は、2023年8月30日に、国際学術誌「Physical Review Letters」にオンライン掲載されました。
【DOI】
https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.131.092502
【書誌情報】
K. Tsukada, Y. Abe, A. Enokizono, T. Goke, M. Hara, Y. Honda, T. Hori, S. Ichikawa, Y. Ito, K. Kurita, C. Legris, Y. Maehara, T. Ohnishi, R. Ogawara, T. Suda, T. Tamae, M. Wakasugi, M. Watanabe, H. Wauke (2023). First Observation of Electron Scattering from Online-Produced Radioactive Target. Physical Review Letters, 131(9):092502.