遠藤健一 化学研究所研究員(研究当時)、猿山雅亮 同特定准教授、寺西利治 同教授らの研究グループは、白金単原子触媒を担体表面/内部に選択的に担持する方法の開発に成功しました。
貴金属触媒粒子を極限まで小さくした単原子触媒は次世代の触媒として期待されていますが、その土台となる担体との位置関係がどう触媒性能に影響するか、またどのような手法でその位置関係を制御できるかは知られていませんでした。
今回本研究グループは、白金イオンをCdSeナノ結晶に担持した単原子触媒において、錯体化学を利用した白金イオンの位置制御法を開発しました。原料となる白金錯体および溶媒を使い分けることによって、白金イオンがCdSeナノ結晶の表面に吸着された状態と、結晶内部に取り込まれた状態の2種類の担持構造を選択的に作り分けることができることを明らかにしました。さらに、白金イオンがCdSeナノ結晶表面に存在する構造の方が、光触媒水素発生反応において高い活性と安定性を示すことを明らかにしました。
本研究から得られた知見は、単原子触媒の担体に対する位置関係が触媒性能に重要であることを示すとともに、担体内外における単原子触媒の位置を自在に制御する新しい手法を与えるものです。この知見をもとに、高性能な単原子触媒の設計・合成が進展することが期待されます。
本研究成果は、2023年7月15日に、国際学術誌「Nature Communications」にオンライン掲載されました。
「ナノ結晶という目に見えない小さな粒子上で、Pt2+イオンの位置を制御するというのは野心的な挑戦でしたが、寺西研究室で培われてきたナノ結晶の化学と、自分が博士課程で学んだ錯体化学がうまく組み合わさったことで、これを実現することができました。また、生成物中のPt2+イオンの位置を区別して定量することも困難な課題でしたが、たくさんの研究室メンバーに助けられ、多数の分析手法を組み合わせることで乗り越えることができました。今後も様々な金属イオンを元にした物質の精密な合成法を開拓していきたいと考えています。」(遠藤健一)
【DOI】
https://doi.org/10.1038/s41467-023-40003-8
【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/284429
【書誌情報】
Kenichi Endo, Masaki Saruyama, Toshiharu Teranishi (2023). Location-selective immobilisation of single-atom catalysts on the surface or within the interior of ionic nanocrystals using coordination chemistry. Nature Communications, 14:4241.