ミジンコたちのArt of War―捕食者が誘導する表現型可塑性と体サイズの関係―

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 生物の進化や適応を解明する上で、表現型可塑性が何によって発現するかは進化生態学の分野で重要なトピックです。小さなプランクトンを捕食する水生昆虫(フサカ幼虫)と、大きな餌を好む魚類の両方から狙われるミジンコ属(Daphnia)は、体の形を変えたり(防衛形態の発現)、産む仔の数を変えたり(生活史特性の変化)、さまざまな生き残り戦略を獲得しています。表現型可塑性に関する研究で、ミジンコはモデル生物のひとつとしてよく研究されていますが、種ごとに異なる体サイズや捕食者の餌サイズ選択性との関係はよくわかっていませんでした。

 土居秀幸 情報学研究科教授は、永野真理子 京都先端科学大学嘱託講師、坂本正樹 富山県立大学准教授、Kwang-Hyeon Chang Kyung Hee大学教授らと共同で、ミジンコの表現型可塑性による防衛は捕食者のサイズ選択的捕食に合わせて発現していると仮説を立て、メタ解析を行いました。その結果、両捕食者にもっとも狙われやすい中型ミジンコたちが、もっとも防衛(表現型可塑性を発現)することがわかりました。

 本研究成果は、2023年6月8日に、国際学術誌「Freshwater Biology」にオンライン掲載されました。

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通常の形態(左)と防御形態(右)のマギレミジンコ(Daphnia ambigua)(写真提供:坂本正樹)
マギレミジンコの形態変化(尖頭形成:せんとうけいせい)はフサカ幼虫が放出する情報化学物質(カイロモン)によって誘導され、防御形態の個体はフサカ幼虫に食われにくくなる
研究者のコメント

「今私たちは生物多様性の保全が求められていますが、生物種だけでなく、生物間においてみられる生物の多様な相互作用のしかたとその役割を理解することも、同じくらい重要だと考えています。私たちはミジンコを通じて、その面白さを伝えられたらと思います。」(永野真理子)

研究者情報
書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1111/fwb.14108

【書誌情報】
Mariko Nagano, Masaki Sakamoto, Kwang-Hyeon Chang, Hideyuki Doi (2023). Predator-induced plasticity in relation to prey body size: A meta-analysis of Daphnia experiments. Freshwater Biology, 68(8), 1293-1302.

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