三宅崇仁 薬学研究科助教、井ノ上雄一 同博士後期課程学生(研究当時)、土居雅夫 同教授のグループは、体内リズムのしなやかな時刻合わせに必要なRNA配列を発見しました。
私たちが健やかに生きていくためには、全身の37兆個もの細胞がそれぞれバラバラではなく、テンポをそろえて調和的に概日リズムを生むことが必要です。この調和の実現に体温が重要な役割を担います。これまでの研究から、体内でおこる数℃レベルの基礎体温の変化が全身の細胞を調和する働きがあると示されてきました。しかし、その分子メカニズムは謎に包まれていました。
本研究では、最新のRibo-seq解析を通じて、体内時計の振動を生み出す中核遺伝子Per2のメッセンジャーRNAの5’非翻訳領域(5’UTR)というこれまで理解が進んでいなかった領域に、最小単位uORFというこれまで見過ごされていた新しいRNAエレメントを同定し、これが体温による細胞のリズム合わせに必須であることを見つけました。数℃の生理的な温度変化はPer2の転写ではなく翻訳スピードを微調節することがわかりました。生命の「しなやかさ」の本質にせまる発見の一つであるといえます。
本研究成果は、2023年3月6日に、国際科学誌「Cell Reports」にオンライン掲載されました。
「しなやかに生物が温度に合わせてリズムを調和させる不思議な現象にRNA上の新奇の配列が必要だとわかりました。いま現在まだつかめていない生命のしなやかさの不思議に一歩近づく発見だと考えています。」
【DOI】
https://doi.org/10.1016/j.celrep.2023.112157
【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/281515
【書誌情報】
Takahito Miyake, Yuichi Inoue, Xinyan Shao, Takehito Seta, Yuto Aoki, Khanh Tien Nguyen Pham, Yuichi Shichino, Junko Sasaki, Takehiko Sasaki, Masahito Ikawa, Yoshiaki Yamaguchi, Hitoshi Okamura, Shintaro Iwasaki, Masao Doi (2023). Minimal upstream open reading frame of Per2 mediates phase fitness of the circadian clock to day/night physiological body temperature rhythm. Cell Reports, 42(3):112157.
科学新聞(2023年3月17日)およびScience Japan(2023年4月26日)に掲載されました。