沖真弥 医学研究科特定准教授、伊藤薫 理化学研究所チームリーダー、宮澤一雄 同訪問研究員、小室一成 東京大学教授、野村征太郎 同特任助教、伊藤正道 同特任助教、鎌谷洋一郎 同教授、尾崎浩一 国立長寿医療研究センターメディカルゲノムセンター長(理化学研究所客員主管研究員)らの共同研究グループは、大規模なゲノムデータから心房細動のゲノムワイド関連解析(GWAS)を行い、疾患の遺伝的基盤に基づく新しい知見を明らかにしました。
本研究成果は、心房細動の病態解明から新しい治療ターゲットの同定に加え、個人のゲノム情報に基づく精密化医療の実現に貢献すると期待できます。
今回、共同研究グループは、バイオバンク・ジャパンのゲノムデータを用いた日本人のGWASとヨーロッパ人のGWASをメタ解析した世界最大規模の民族横断的GWASを実施し、新しい疾患感受性座位を同定しました。さらにChIP-seqのデータを用いた解析では、転写因子ERRgが心房細動の関連遺伝子の発現調整と関わることを明らかにしました。また、GWASの結果から構築した遺伝的リスクスコア(PRS)が疾患の発症年齢や心原性脳梗塞の予測、さらに脳梗塞死を含む心血管死の予後予測にも有用であることを示しました。
本研究成果は、2023年1月19日に、科学雑誌「Nature Genetics」にオンライン掲載されました。
研究者のコメント
「本研究では、私たちが開発したChIP-Atlas(https://chip-atlas.org)というツールにより、エピゲノミクスビッグデータと疾患ゲノムデータの統合解析を行いました。これにより心房細動において中心的な役割を果たす転写因子が予測され、それが実験によって証明されました。本論文は、データ駆動型予測と実験による証明を組み合わせたBioDX(バイオデジタルトランスフォーメーション)の好例といえる成果であり、今後さまざまな遺伝性疾患の解明に貢献できることが期待されます。」(鄒兆南 医学研究科博士後期課程学生、沖真弥 特定准教授)
【DOI】
https://doi.org/10.1038/s41588-022-01284-9
【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/279276
【書誌情報】
Kazuo Miyazawa, Kaoru Ito, Masamichi Ito, Zhaonan Zou, Masayuki Kubota, Seitaro Nomura, Hiroshi Matsunaga, Satoshi Koyama, Hirotaka Ieki, Masato Akiyama, Yoshinao Koike, Ryo Kurosawa, Hiroki Yoshida, Kouichi Ozaki, Yoshihiro Onouchi, BioBank Japan Project, Atsushi Takahashi, Koichi Matsuda, Yoshinori Murakami, Hiroyuki Aburatani, Michiaki Kubo, Yukihide Momozawa, Chikashi Terao, Shinya Oki, Hiroshi Akazawa, Yoichiro Kamatani, Issei Komuro (2023). Cross-ancestry genome-wide analysis of atrial fibrillation unveils disease biology and enables cardioembolic risk prediction. Nature Genetics, 55(2), 187–197.