核融合プラズマへの燃料供給ペレット周辺の極限状況下に現れる“揺らぎ”構造の発見―核融合炉の持続的燃焼の制御向上への貢献に期待―

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 夜空にきらめく星々、それらは核融合エネルギーによって輝いています。エネルギー問題を恒久的に解決するため、太陽や星々が何十億年も輝き続けるエネルギー源を地上に実現する、核融合発電の研究が進展しています。そのためには、超高温の核融合プラズマを閉じ込め、核融合反応を維持する技術の確立が必須です。

 大島慎介 エネルギー理工学研究所助教、門信一郎 同准教授、長﨑百伸 同教授、鈴木琢土 エネルギー科学研究科修士課程学生(研究当時)、的池遼太 同博士課程学生(現:量子科学技術研究開発機構)、本島厳 核融合科学研究所准教授らの共同研究グループは、磁場閉じ込め核融合プラズマへの燃料供給ペレット周辺に形成される“揺らぎ”を発見しました。

 核融合炉では、太陽の中心温度を超える1億度超の超高温プラズマ中心部に、燃料供給のための水素の氷(ペレット)を弾丸のように打ち込むことが必要とされます。今回の研究では、京都大学エネルギー理工学研究所のヘリオトロンJ装置で生成した1千万度を超える高温プラズマに、核融合科学研究所が開発した水素ペレット入射装置を用いて時速~900kmでペレットを打ち込み、プラズマ中でペレットが溶ける様子を10万分の1秒で撮影可能な高速カメラで観測しました。得られた画像の解析によって、ペレットが溶ける過程において“揺らぎ”が生まれ、三次元的に伝搬していることを解明しました。“揺らぎ”は、身近なところでは蛇口から流れ出る水の揺らぎ・立ち上る煙の揺らぎ・川や海の流れから、天体規模の現象であるオーロラ・太陽や木星表面に観測される揺らぎまで、自然界において普遍的に存在し、様々な機能を果たしています。超高温プラズマと水素の氷が共存する極限状況における“揺らぎ“の発見は、将来の核融合炉でのペレットによる燃料供給・持続的燃焼の実現においても、”揺らぎ“の発生機構・機能を解明・理解し、精緻(せいち)に制御することの重要性を初めて示しました。 

 本研究成果は、2022年8月20日に、国際学術誌「Scientific Reports」にオンライン掲載されました。

文章を入れてください
ヘリオトロンJ装置とその磁場構造、そして観測されたペレット周辺の“揺らぎ”構造

研究者のコメント

「核融合研究は装置・実験の規模が大きく、必然的に大きな予算、多くの人員、長い研究期間が必要です。このため、短期間で成果が求められ、予算や研究人員も先細りしつつある日本の大学等の学術機関では、端的に言って“コスパが悪い”と判断され、老朽化しつつある装置の維持すら厳しい状況に追い込まれつつあります。しかしながら、数年後に稼働を開始するITERなどの超大型プロジェクトと、本研究のような先進的、かつ柔軟な物理研究の実施が可能な小・中規模装置での基礎研究は、研究の両輪としてどちらも不可欠です。資源のない日本にこそ核融合研究は重要です。持続的な研究環境を実現するため、核融合研究をご理解・ご支援いただけたら幸いです。」(大島慎介)

「本研究は「高速カメラで面白い現象が見えないか」という興味・関心から始まりました。解析手法を工夫し、実験装置のヘリオトロンJの特性を利用することで、十分な成果を得られることを示せたと思います。このような挑戦的な研究ができたのは、大島助教をはじめとしたヘリオトロングループの皆様と家族のサポートのおかげです。改めて感謝いたします。」(鈴木琢土)

書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1038/s41598-022-18239-z

【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/276538

【書誌情報】
S. Ohshima, T. Suzuki, R. Matoike, G. Motojima, S. Kado, A. Mori, A. Miyashita, S. Kobayashi, T. Minami, A. Iwata, D. Qiu, C. Wang, M. Luo, P. Zhang, Y. Kondo, N. Nishino, T. Mizuuchi, H. Okada, S. Konoshima, S. Inagaki, K. Nagasaki (2022). Three-dimensional dynamics of fluctuations appearing during pellet ablation process around a pellet in a fusion plasma experiment. Scientific Reports, 12:14204.