鈴木俊貴 白眉センター特定助教らの研究グループは、鳥類の1種であるシジュウカラにおいて、2つの連続する鳴き声を1つのまとまりとして認識する能力を実験的に確認しました。
ヒトの多彩な言語表現は、2つの要素を1つにまとめる力のもとに成り立ちます。例えば、「小さくて黒い犬」という表現は、「小さくて」と「黒い犬」が1つにまとまったものであり、そのうち「黒い犬」は、「黒い」と「犬」が1つにまとまった表現です。このように、2語を1つのまとまりとして認識する能力は、言語学では併合(Merge)と呼ばれ、ヒトの言語の核であると考えられています。
シジュウカラは、仲間と共に天敵を追い払うための号令として、警戒声と集合声を連ねて鳴きます。この音列を1つの音源(1羽を想定)から再生すると、それを聴いたシジュウカラは天敵を追い払うために集まります。しかし、警戒声と集合声を2つの音源(2羽を想定)から別々に聴かせると、時間的には2つの音声が連続しているにもかかわらず、追い払い行動を示さないことが本研究から明らかになりました。つまり、シジュウカラは単に時間的に連続する2つの音声に反応しているのではなく、「2つの音声が1個体によりまとめて発話されているか」を認識した上で、音列の意味を解読することがわかりました。
併合は、私たちが当たり前のように使っている能力ですが、ヒト以外の動物でその存在が確認されたのは今回が初めてです。本研究は、動物のコミュニケーションとヒトの言語の新たな共通点を明らかにしただけでなく、私たちの言語がどのように進化したのか解き明かす上でも重要な知見を与えるものです。
本研究成果は、2022年9月24日に、「Nature Communications」にオンライン掲載されました。
研究者のコメント
「本研究から、2語を1つにまとめて認識する能力(併合)は、ヒトに固有なものではなく、シジュウカラにおいても進化していることが明らかになりました。ヒトの言語と動物のコミュニケーションは決して断絶されたものではなく、個々の「認知能力」に着目すれば、進化的連続性や共通点が見えてくるのだと思います。今後、野生動物のコミュニケーション研究や言語の進化研究がより盛んになることを期待しています。」(鈴木俊貴)
【DOI】
https://doi.org/10.1038/s41467-022-33360-3
【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/276500
【書誌情報】
Toshitaka N. Suzuki, Yui K. Matsumoto (2022). Experimental evidence for core-Merge in the vocal communication system of a wild passerine. Nature Communications, 13:5605.
読売新聞(10月6日 25面)に掲載されました。