植物プランクトンの成長に必要な栄養塩の元となる窒素(N)とリン(P)の相対要求量(どちらの元素がより重要か?)は、生態系内の優占植物プランクトン種を決定し、栄養塩の利用可能性に対する植物プランクトンの反応を説明するために重要です。しかし、植物プランクトンの生態とNとPの比率(N:P)の問題を扱ったこれまでの研究では、これら元素の栄養塩類の絶対量に注目して来なかったため、実際の植物プランクトンの生態について誤解を生むケースが多々ありました。
Mengqi Jiang 理学研究科博士課程学生(兼:生態学研究センター)と中野伸一 生態学研究センター教授は、室内実験と文献情報を用いて、貧栄養(栄養塩類の量が少ない)から富栄養(栄養塩類の量が多い)までの異なる栄養レベル下における植物プランクトンのN:P相対要求量を評価しました。その結果、植物プランクトンの成長に必要なN:Pの相対的な要求量は、栄養レベルが高くなるにつれて減少することが分かりました。つまり、Nは貧栄養状態での植物プランクトンの成長を促進するために重要である一方、Pは富栄養状態での植物プランクトンの成長を制限するために主要な因子である可能性が見えてきました。この研究成果は、富栄養化が生態系に与える負の影響を緩和するためのNとPの削減について栄養レベルに応じた相対的重要性を明らかにするのに役立つでしょう。
本研究成果は、2022年7月14日に、国際学術誌「Water Research」にオンライン掲載されました。
研究者のコメント
「植物プランクトンが利用する窒素とリンの栄養塩類の影響については、従来の栄養塩類の比率(N:P比など)に着目した研究では、栄養塩類の濃度の絶対値の重要性が見落とされるケースが先行研究に多々見られました。本研究は、植物プランクトンの増殖に必要なN:P供給比に、NとPの栄養塩類の絶対量(栄養レベル)が与える影響について検討した点で、高いオリジナリティがあります。私たちは、植物プランクトンに関わるN:Pの問題に取り組む際、栄養塩類の絶対量の影響を重要視するよう、研究者に呼びかけています。」(Mengqi Jiang)
【DOI】
https://doi.org/10.1016/j.watres.2022.118868
【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/275860
【書誌情報】
Mengqi Jiang, Shin-ichi Nakano (2022). The crucial influence of trophic status on the relative requirement of nitrogen to phosphorus for phytoplankton growth. Water Research, 222:118868.