赤外光駆動型光合成をクライオ電顕で捉えることに成功 -低いエネルギーで通常の光化学反応が駆動される仕組み-

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 伊福健太郎 農学研究科教授、伊藤(新澤)恭子 兵庫県立大学特任教授、菓子野(井上)名津子 同客員教員(助教)、菓子野康浩 同准教授、浜口祐 理化学研究所研究員、川上恵典 同研究員、米倉功治 同グループディレクター、伊藤繁 名古屋大学名誉教授、山下栄樹 大阪大学准教授は共同で、クライオ電子顕微鏡を用いて、近赤外光を吸収するクロロフィルdを主色素として光合成を行うアカリオクロリス・マリナ(Acaryochloris marina)の光化学系I(系I)複合体の構造を明らかにすることに成功しました。

 クロロフィルdの励起によって得た近赤外光のエネルギーは、他の酸素発生型光合成生物で用いられるクロロフィルaより80mVも低いため、アカリオクロリス・マリナの光合成がどのような仕組みで他の酸素発生型光合成と同じように進むことができるのか、詳しい仕組みは明らかではありませんでした。

 本研究により、アカリオクロリス・マリナの系I複合体の立体構造が明らかになったことで、低いエネルギーで通常の系Iと同様の反応を達成する仕組みが解明され、本研究の成果は太陽光に多量に含まれる赤外光を利用した人工光合成の開発といった応用につながると期待できます。

 今回、共同研究グループは、冷陰極電界放出型の電子銃を備えた新型の国産クライオ電子顕微鏡を用いて、アカリオクロリス系I複合体の原子構造を2.58オングストローム(Å、1Åは100億分の1メートル)分解能での決定に成功しました。

 本研究成果は、2021年4月20日に、国際学術誌「Nature Communications」に掲載されました。

本研究で明らかにされたアカリオクロリス系Ⅰ複合体(中央)と 電子伝達反応の中核となる色素(両端)
図:本研究で明らかにされたアカリオクロリス系I複合体(中央)と
電子伝達反応の中核となる色素(両端)
研究者情報
書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1038/s41467-021-22502-8

【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/262727

Tasuku Hamaguchi, Keisuke Kawakami, Kyoko Shinzawa-Itoh, Natsuko Inoue-Kashino, Shigeru Itoh, Kentaro Ifuku, Eiki Yamashita, Kou Maeda, Koji Yonekura, Yasuhiro Kashino (2021). Structure of the far-red light utilizing photosystem I of Acaryochloris marina. Nature Communications, 12, 2333.