植田和光 物質-細胞統合システム拠点(iCeMS=アイセムス)特定教授、小笠原史彦 同特定研究員、小段篤史 同特定助教らの研究グループは、脊椎動物の進化において、ABCタンパク質の一つであるABCA1とコレステロールが特に重要な役割を果たしたことを明らかにしました。
ATP(アデノシン三リン酸)を利用し、細胞膜を介してさまざまな物質輸送を行うABCタンパク質は、生物の進化において重要な役割を果たしてきました。ABCA1は、善玉コレステロールとよばれるHDLの産生を担うABCタンパク質として知られています。本研究から、ABCA1がHDLの産生のみならず、コレステロールを細胞膜内で動かす活性を併せ持つことが明らかになりました。細胞膜内でコレステロールが動くことで、コレステロール自身が細胞増殖などを調節するシグナル分子として機能できるようになります。
脊椎動物は、ABCA1の働きにより、コレステロールをシグナル分子として活用することを可能にし、他の生物にはない多様で複雑な体のつくりと、環境への適応能力を獲得した可能性があります。これまで、コレステロールは細胞膜を強くするといった物理的な機能と、ステロイドホルモンの材料となることが主な生理的役割であると考えられてきました。植田教授らは、脊椎動物において、これまで予想しなかったシグナル分子という重要な役割をコレステロールが果たしていることを提唱しました。今後、コレステロールの関係する病気の治療法などを根本から見直すことにつながることが期待されます。
本研究成果は、2020年10月1日に、国際学術誌「FEBS Letters」のオンライン版に掲載されました。
【DOI】https://doi.org/10.1002/1873-3468.13945
Fumihiko Ogasawara, Atsushi Kodan, Kazumitsu Ueda (2020). ABC proteins in evolution. FEBS Letters, 594(23), 3876-3881.