舟場正幸 農学研究科准教授、橋本統 北里大学准教授、栗崎晃 奈良先端科学技術大学院大学教授らの研究グループは、肝臓から分泌されるアクチビンEというタンパク質が、脂肪を燃焼させる褐色脂肪細胞の活性化やベージュ脂肪細胞の増加を促進し、エネルギー代謝を亢進させる作用を持つことを見出しました。
本研究成果は、2018年10月31日に米国の国際学術誌「Cell Reports」のオンライン版に掲載されました。
研究者からのコメント
アクチビンEは肝臓で高発現しますが、その機能に関しては理解が進んでおらず、忘れ去られたタンパク質でした。北里大・橋本先生を中心にその機能解析に取り組んできました。訳のわからない状態が長年続きましたが、ホルモンとして作用し、褐色・ベージュ脂肪細胞の機能を制御しているのではないか、と思えるデータを得ることができ、本研究成果につながりました。今回の研究成果を起点にさらに研究を展開させることができたらと願っています。
概要
アクチビンEは、肝臓で特異的に作られる細胞の分化・増殖因子の一種として発見されましたが、長い間その機能は不明でした。
本研究グループは、アクチビンEを肝臓から過剰に分泌するマウスを作製したところ、対照のマウスと比べて血糖値が低く、インスリン感受性が向上しており、体温が高めでエネルギー代謝が亢進していることが分かりました。さらに、このマウスは高脂肪食を与えた場合でも体重増加が抑えられていました。そこで、白色脂肪組織を詳しく調べてみたところ、ベージュ脂肪や褐色脂肪のタンパク質「Ucp1」の量が増加し、ベージュ脂肪細胞自体も増加していたことから、脂肪組織において熱産生が盛んになり、エネルギー代謝が上昇していると考えられました。
一方、アクチビンE遺伝子を欠損させたマウスでは、寒冷刺激に対する反応が鈍く、白色脂肪組織中のベージュ脂肪細胞の減少が原因と考えられる低体温の症状がみられました。さらに、アクチビンEタンパク質を、培養した褐色脂肪細胞にふりかけたところ、Ucp1の量が増加したことから、アクチビンEに褐色脂肪細胞の熱産生を直接活性化させる働きがあることを確認しました。
本研究により、アクチビンEは、肝臓から分泌されるホルモン(ヘパトカイン)として働き、褐色脂肪を活性化させ、白色脂肪でベージュ脂肪細胞を増加させることで、余分なエネルギーを熱に変換して消費させる役割があることが明らかになりました。本研究成果は、糖尿病をはじめ種々の生活習慣病の原因となる肥満の治療薬の開発につながることが期待されます。
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】 https://doi.org/10.1016/j.celrep.2018.10.008
【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/234944
Osamu Hashimoto, Masayuki Funaba, Kazunari Sekiyama, Satoru Doi, Daichi Shindo, Ryo Satoh, Hiroshi Itoi, Hiroaki Oiwa, Masahiro Morita, Chisato Suzuki, Makoto Sugiyama, Norio Yamakawa, Hitomi Takada, Shigenobu Matsumura, Kazuo Inoue, Seiichi Oyadomari, Hiromu Sugino, Akira Kurisaki (2018). Activin E Controls Energy Homeostasis in Both Brown and White Adipose Tissues as a Hepatokine. Cell Reports, 25(5), 1193-1203.