笠原成 理学研究科助教、花栗哲郎 理化学研究所チームリーダー、芝内孝禎 東京大学教授らの共同研究グループは、鉄系超伝導体の一種であるセレン化鉄において、電子状態が一軸的方向性を持つ「電子液晶」状態が超伝導に大きな影響を与えていることを実験的に明らかにしました。
本研究成果は、2018年5月26日に、米国のオンライン科学雑誌「Science Advances」に掲載されました。
研究者からのコメント
今回の成果により、電子液晶と超伝導が密接に関連していることについて、実験的な裏付けが初めて得られました。今後、セレン化鉄以外の電子液晶相近傍にある超伝導体(例えば銅酸化物高温超伝導体)との比較研究を推進することで、電子液晶と超伝導を統一的に理解する枠組みの構築に貢献できます。
また、電子液晶が電子対形成にどのように関わっているのかを明らかにできれば、電子液晶を通した超伝導の制御や、高い超伝導転移温度を持つ新物質を探索する上での指針につながると期待できます。
概要
極低温で電気抵抗なしに電流が流れる超伝導現象は、基礎物性物理における重要課題であるだけでなく、強力な電磁石や送電への利用をはじめ、さまざまな応用が可能です。1957年に超伝導現象の基本的な性質を理論的に解明した米国のJ. バーディーン、L. N. クーパー、J. R. シュリーファー(各頭文字をとってBCSと呼称)は、超伝導状態では電子が二つずつ対を形成する必要があることを明らかにしました。BCSは、電子対の形成は結晶格子の振動が媒介すると考え(BCS理論)、実際、ほとんどの金属や合金の超伝導でこの考えが正しいことが分かっています。一方、磁気的な相互作用など、格子振動以外の機構で電子対が形成されていると考えられる超伝導体も発見されており、非従来型超伝導体と呼ばれています。
電子液晶と非従来型超伝導との関連はこれまでも議論されていましたが、両者の相関を直接示す証拠は見つかっていませんでした。本研究グループは、セレン化鉄における電子の方向性をセレンの一部を硫黄で置き換えることによって系統的に制御し、それに伴う電子状態と超伝導状態の変化を走査型トンネル顕微鏡法/分光法でくわしく調べました。その結果、方向性がなくなった途端に、超伝導を担う電子対の結合が突然弱くなることが分かりました。
図:電子状態の一軸的方向性を反映する電子の干渉模様
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】 https://doi.org/10.1126/sciadv.aar6419
【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/231254
Tetsuo Hanaguri, Katsuya Iwaya, Yuhki Kohsaka, Tadashi Machida, Tatsuya Watashige, Shigeru Kasahara, Takasada Shibauchi, Yuji Matsuda (2018). Two distinct superconducting pairing states divided by the nematic end point in FeSe1-xSx. Science Advances, 4(5), eaar6419.