中川光 フィールド科学教育研究センター特定助教らの研究グループは、魚の体表や糞などと共に水中に放出されたDNA(環境DNA)を分析する新技術を用いることで、これまでに何年もかけて採集や目視観察によって確認されてきた琵琶湖周辺地域の河川の魚類の86.4%を、たった一人の調査者による10日間のサンプリングで検出することに成功しました。
本研究成果は、2018年2月28日午前0時に米国の科学誌「Freshwater Biology」にオンライン掲載されました。
研究者からのコメント
川の生き物すべての動態を、季節を通して、何年も継続的にモニタリングすることは、川の生き物たちのつながり(食べる-食べられる、競争するなど)や共存の仕組みを明らかにしようとする研究者の夢といえます。河川には、魚類だけでなく数百種類におよぶ水生昆虫や藻類など様々な生き物が住んでいて、これらの生き物すべての分布や動態を調べるのは従来の方法ではたった一年でもとても大変です。環境DNAメタバーコーディングの技術の発達が、そうしたモニタリングを実現させる可能性を想像するととてもワクワクしてきます。
概要
水中に漂う環境DNAを用いた生物の生息確認技術は、従来多大な労力と費用をかけて行われていたモニタリングの手間を劇的に軽減させうるものとして、近年注目が集まっています。中でも、次世代シーケンサーという機械を用いて行うDNAメタバーコーディングという方法では、多種の生物分類群を一度に調べることができます。本研究グループは、魚類の環境DNAを対象としたメタバーコーディング法について、これまで検証が行われていなかった河川での適用可能性を検討しました。
日本で最も河川魚類の種多様性が高く、分布がよく調べられている地域の一つである琵琶湖周辺地域において、2014年8月から10月に10日間かけて、51河川102地点で水サンプルを採集し、河川水に含まれる環境DNAから生息魚種の推定を行いました。結果の妥当性は、採集や目視観察といった従来の調査方法から得られた複数の文献データに含まれる、1700地点以上の魚類の分布記録との比較によって精査しました。
その結果、環境DNAから、文献から予想された44種のうちの38種とこれまで報告がなかった2種の合計40種の魚類のDNAを検出できました。この結果は、これまで多大な労力を要した、網羅的な継続モニタリングや、外来種の侵入状況といった速報性の要求される情報の収集における本手法の有効性を示しています。
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】 https://doi.org/10.1111/fwb.13094
【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/230967
Hikaru Nakagawa, Satoshi Yamamoto, Yukuto Sato, Tetsuya Sado, Toshifumi Minamoto, Masaki Miya (2018). Comparing local- and regional-scale estimations of the diversity of stream fish using eDNA metabarcoding and conventional observation methods. Freshwater Biology, 63(6), 569-580.
- 京都新聞(2月28日 29面)に掲載されました。