池田宏輝 iPS細胞研究所(CiRA=サイラ)研究員、山本拓也 同講師らの研究グループは、iPS細胞やES細胞などの多能性幹細胞において、分化関連遺伝子群が共局在していることを明らかにしました。
本研究成果は、2017年11月20日午後7時に英国の科学誌「Nature Communications」にオンライン掲載されました。
研究者からのコメント
今回の研究から、体細胞では核膜に結合した領域にある分化関連遺伝子座(染色体内での遺伝子の位置)が、初期化により核膜から離脱し、核内部でそれら遺伝子座が共局在していることがわかりました。これは染色体の高次構造や核内配置が分化多能性を発揮するために重要な役割を果たしている可能性を示しています。今後は、初期化や多能性幹細胞の分化制御に重要な染色体高次構造や核内配置を同定するとともに、より高品質なヒトiPS細胞の作製やiPS細胞作製期間の短縮、多能性幹細胞の効率的な分化誘導方法の開発につなげていきたいと思います。
本研究成果のポイント
- 多領域の染色体高次構造を同時に高精度で同定できる手法、Multiplexed sprinkerette 4C-Seq(ms4C-Seq)を開発した。
- 分化関連遺伝子座は初期化により核膜から離れ、多能性幹細胞では核内部で共局在していることを示した。
- 多能性を維持する仕組みに染色体の高次構造や核内配置が重要である可能性を示した。
概要
染色体の高次構造は、細胞の性質を決める遺伝子の働きを調節する一つの要因です。多能性幹細胞では、分化シグナルに応答するために、ほとんど発現していない遺伝子でも即座に発現できるような状態である必要があります。
本研究グループは、多領域の染色体高次構造を同時に高精度で同定できる手法、Multiplexed sprinkerette 4C-Seq(ms4C-Seq)を開発し、分化関連遺伝子群の染色体高次構造と核内配置について、体細胞と多能性幹細胞との違いを明らかにしました。さらに、活性化型と不活性化型のヒストン修飾(DNAを巻きつけているタンパク質であるヒストンに、アセチル基、メチル基などが結合されると、巻きつけ方が変化し、遺伝子の発現が活性化されたり、不活性化されたりする)を同時に持つ分化関連遺伝子群が、多能性幹細胞では共局在する傾向があることを示しました。この結果は、染色体高次構造が分化多能性に関連している可能性を示しています。
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】 https://doi.org/10.1038/s41467-017-01679-x
【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/227917
Hiroki Ikeda, Masamitsu Sone, Shinya Yamanaka & Takuya Yamamoto (2017). Structural and spatial chromatin features at developmental gene loci in human pluripotent stem cells. Nature Communications, 8, 1616.
- 京都新聞(11月21日 29面)および日刊工業新聞(11月21日 33面)に掲載されました。