SACLAの得意とするX線波長でタンパク質微結晶の新規構造解析に成功

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中津亨 薬学研究科准教授、岩田想 医学研究科教授(理化学研究所グループディレクター)、山下恵太郎 理化学研究所基礎科学特別研究員らの研究グループは、東京大学、高エネルギー加速器研究機構、大阪大学、高輝度光科学研究センターと共同で、日本初のX線自由電子レーザー(XFEL:X-ray Free-Electron Laser)施設SACLAの非常に強力な高エネルギー(短波長)X線を用い、常温においてセレノメチオニンを導入したACGとStemという二種類のタンパク質のμmサイズの微結晶から、異常分散効果を用いて新規立体構造の決定に成功しました。

本研究成果は、2017年8月10日に英国の科学雑誌「IUCrJ」にオンライン掲載されました。

研究者からのコメント

タンパク質の立体構造を明らかにし、その構造を理解するということは、創薬研究や様々な研究の第1歩となる基礎データとなります。しかし創薬ターゲットとなっている多くの膜タンパク質の立体構造はよくわかっていません。それは結晶を作ることが困難であり、たとえできたとしても非常に小さい結晶のため、精度のよいデータがとれないためです。しかし最近ではSACLAにおいて、1つの微結晶から1枚の回折イメージを連続的に測定するシリアルフェムト秒結晶構造解析により、測定が簡単になってきました。今回、μmサイズの微結晶から精度の高いデータを取得できたことにより、新規の立体構造をわずか13,000枚(測定時間約1時間)で明らかにすることができました。今後、さらに正確なX線回折強度データを見積もる方法を開発し、構造決定が困難な膜タンパク質の構造解析をより簡単なものにしていきたいと考えています。

概要

SACLAや米国のLCLSといった強力なXFEL施設の整備に伴い、μmサイズの結晶を用いたタンパク質構造解析が行われてきましたが、既に類似のタンパク質の構造が判明しているタンパク質の解析例が多く、構造が全く不明なタンパク質の解析はあまり行われてきませんでした。

また、SACLAは、SPring-8のような放射光施設に比べ約10億倍明るいX線を1秒間に最大60回、100兆分の1秒以下のパルスで出力することができます。したがって、従来は超低温で行われていたμmサイズの構造解析が常温で行えるようになってきました。

今回、本研究グループは、立体構造が未知である場合において、原子の異常分散効果のみを用いて構造解析する単波長異常分散法(Single-wavelength Anomalous Diffraction、以下SAD法)により、2種類のタンパク質の微結晶から構造決定を行いました。SAD法では一般的にメチオニンというアミノ酸を、解析の目印としてセレンを含むセレノメチオニンに置き換えたタンパク質結晶を用います。SACLAは、セレン原子の異常分散効果を利用したSAD法に必須の約13keVという高いエネルギーのX線を、安定的に発生させることができるように設計されています。今回はSACLAのこの特徴をうまく用いて、セレンがどこに位置しているかしっかりと確かめることができました。そのため、最少でわずか13,000枚のX線回折イメージから構造解析可能なデータセットを取得できました。今後SACLAを使うことで、新規タンパク質微結晶の迅速なX線結晶構造解析が可能であることを示唆する結果です。

図:Stemタンパク質の立体構造

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1107/S2052252517008557

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/226830

Keitaro Yamashita, Naoyuki Kuwabara, Takanori Nakane, Tomohiro Murai, Eiichi Mizohata, Michihiro Sugahara, Dongqing Pan, Tetsuya Masuda, Mamoru Suzuki, Tomomi Sato, Atsushi Kodan, Tomohiro Yamaguchi, Eriko Nango, Tomoyuki Tanaka, Kensuke Tono, Yasumasa Joti, Takashi Kameshima, Takaki Hatsui, Makina Yabashi, Hiroshi Manya, Tamao Endo, Ryuichi Kato, Toshiya Senda, Hiroaki Kato, So Iwata, Hideo Ago, Masaki Yamamoto, Fumiaki Yumoto and Toru Nakatsu (2017). Experimental phase determination with selenome­thionine or mercury-derivatization in serial femtosecond crystallography. IUCrJ, 4(5), 639-647.

  • 科学新聞(9月22日 2面)に掲載されました。