急性骨髄性白血病の新しい転写因子調節メカニズムを解明 ―従来とは逆にがん抑制遺伝子をターゲットにした治療戦略を提唱―

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上久保靖彦 医学研究科准教授、足立壮一 同教授、森田剣 同研究員、前田信太郎 同修士課程学生、杉山弘 理学研究科教授らの研究グループは、従来<がん抑制因子>と考えられてきた転写因子:Runt-related transcription factor 1 (RUNX1)は白血病の発症と増殖・維持に重要な役割も担っている<がん促進因子>であるというメカニズムを解明するために、難治性骨髄性白血病細胞で、RUNX1を様々な強さで抑制する実験系を用いて解析し、その結果、RUNX1を強く抑制してほぼ消失させると白血病細胞増殖は強く抑制されるものの、RUNX1を中等度に抑制した場合には、RUNXファミリー因子の蛋白総量が最大となり、ROSスキャベンジャー遺伝子であるGSTA2が最も高く発現するため、白血病細胞増殖が反対に強く促進されました。

これは、RUNX1を抑制すると白血病増殖が増強することから、従来RUNX1が<がん抑制遺伝子>として認識されてきた経緯を説明することのできる重要な発見です。

本研究成果は、2017年8月8日(米国東部標準時間)に米国の国際学術誌「Blood Advances」に掲載されました。

研究者からのコメント

急性骨髄性白血病の細胞増殖機構が抑制されることを示す本研究は、新規の治療ターゲットを提唱するだけでなく、それを制御するRUNXファミリーを包括的に制御する必要性を示すものです。本研究チームが現在開発中のRUNX阻害剤(Chb-M':RUNX1・RUNX2・RUNX3のDNA結合コンセンサス配列に結合し、そのターゲット遺伝子群を包括的に抑制可能)の有効性を、このメカニズムは支持しています。今後はChb-M'の臨床応用に向けた研究を継続していきます。

概要

RUNX1は、造血に重要な役割を果たしています。しかし、RUNX1は最近むしろ白血病の発症と増殖・維持に重要な役割も担っていることがわかってきました。しかし、RUNX1に、このような<がん抑制因子>と<がん促進因子>という相反する性質が見られる理由はほとんど解明されてはいませんでした。

本研究チームは現在、RUNX阻害剤(Chb-M')を開発しており、この阻害剤によってαファミリーを包括的に抑制した場合にも強い抗白血病作用が誘導されることを確認しました。本研究では、このようにRUNX1を強く抑制したり、αファミリーを包括的に抑制した場合に誘導される強い抗白血病作用と相反し、中等度の抑制を行った場合に生じる逆説的な強い白血病細胞増殖メカニズムの解明を目指し、RUNX1が<がん抑制因子>であるとともに<がん促進因子>でもあるという、この相反する性質が生じる原因を探りました

その結果、RUNX1の中等度抑制で白血病細胞の増殖が促進し、強度抑制でその増殖が抑制されるメカニズムを解明することに成功しました。

RUNX1を強く抑制すると白血病細胞の増殖が強く抑制される(上左)
一方、中等度に抑制すると、ROSスキャベンジャー遺伝子GSTA2が最も高く発現するため、逆に白血病細胞の増殖が促進される(上右)。

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1182/bloodadvances.2017007591

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/230637

Ken Morita, Shintaro Maeda, Kensho Suzuki, Hiroki Kiyose, Junichi Taniguchi, Pu Paul Liu, Hiroshi Sugiyama, Souichi Adachi and Yasuhiko Kamikubo (2017). Paradoxical enhancement of leukemogenesis in acute myeloid leukemia with moderately attenuated RUNX1 expressions. Blood Advances, 1(18), 1440-1451.