寺尾知可史 学際融合教育研究推進センター特定助教らの研究グループは、フランスコヒン病院、米国ハーバード大学、日本医科大学、東京女子医科大学、産業医科大学、厚生労働省班会議参加施設などと共同で、強皮症患者・対照群合わせて1.9万人のDNAを解析して新規関連遺伝子を二つ発見しました。
本研究成果は、2017年3月17日に「Annals of the Rheumatic Diseases」に掲載されました。
研究者からのコメント
強皮症は未だ良い治療法が無い疾患です。ゲノム解析を今後も続けて、疾患の病態解明と治療法の探索を続けたいと思います。
本研究成果のポイント
- 強皮症の大規模全ゲノム関連解析をアジア人で初めて行い、ヨーロッパ人データと統合して、新規関連遺伝子としてPRDM1、GSDMAを発見
- 両遺伝子とも自己免疫性疾患やアレルギー性疾患との関連が知られており、共通の遺伝・分子的背景を示唆
- リンパ球の一部が病態に重要である可能性を示唆
概要
強皮症は皮膚および血管・臓器の線維化・硬化を来す疾患であり、白血球が自分自身を攻撃する自己免疫が関わると考えられています。女性に多く、皮膚の硬化が及ぶ範囲によって、全身性と限局性に分類されます。患者は世界中に存在しており、本邦での患者数は約2万5,000人と推定され、厚生労働省により特定疾患治療研究事業対象疾患に指定されています。重篤な合併症に対しては免疫抑制剤が用いられますが、根本的な治療がなく治療に難渋することも少なくありません。
強皮症の原因としては遺伝的要因の関与が知られており、これまで、自己と非自己を認識し、免疫に深くかかわるヒト白血球組織適合抗原(HLA)領域の他、12の非HLA領域が主に全ゲノム関連解析(GWAS)という手法によって明らかにされてきました。一方で、これまでの強皮症の遺伝的解析はほとんどがヨーロッパ人におけるものであり、アジア人における強皮症GWASは小規模のものにとどまっていました。
本研究グループは、日本人716人の患者と1,797人の健常人対照検体を用いて、一塩基多型(SNP)と呼ばれる遺伝子変異に注目したアレイを使用し、GWASを行いました。その結果をフランス人のGWAS結果と統合し、約360万のSNPにおける解析によって、既知の領域を除く33の疾患感受性遺伝子の候補を見出しました。それら33領域について、日本人とヨーロッパ人合計で3,156人の患者と11,178人の健常人対照検体を用いて関連を再評価し、PRDM1、GSDMAの2領域が疾患と関連することを見出しました。
図:GWAS結果(Terao C, et al, Ann Rheum Dis. 2017 in pressより)
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】 https://doi.org/10.1136/annrheumdis-2016-210645
Chikashi Terao, Takahisa Kawaguchi, Philippe Dieude, John Varga, Masataka Kuwana, Marie Hudson, Yasushi Kawaguchi, Marco Matucci-Cerinic, Koichiro Ohmura, Gabriela Riemekasten, Aya Kawasaki, Paolo Airo, Tetsuya Horita, Akira Oka, Eric Hachulla, Hajime Yoshifuji, Paola Caramaschi, Nicolas Hunzelmann, Murray Baron, Tatsuya Atsumi, Paul Hassoun, Takeshi Torii, Meiko Takahashi, Yasuharu Tabara, Masakazu Shimizu, Akiko Tochimoto, Naho Ayuzawa, Hidetoshi Yanagida, Hiroshi Furukawa, Shigeto Tohma, Minoru Hasegawa, Manabu Fujimoto, Osamu Ishikawa, Toshiyuki Yamamoto, Daisuke Goto, Yoshihide Asano, Masatoshi Jinnin, Hirahito Endo, Hiroki Takahashi, Kazuhiko Takehara, Shinichi Sato, Hironobu Ihn, Soumya Raychaudhuri, Katherine Liao, Peter Gregersen, Naoyuki Tsuchiya, Valeria Riccieri, Inga Melchers, Gabriele Valentini, Anne Cauvet, Maria Martinez, Tsuneyo Mimori, Fumihiko Matsuda, Yannick Allanore. (2017). Transethnic meta-analysis identifies GSDMA and PRDM1 as susceptibility genes to systemic sclerosis. Annals of the Rheumatic Diseases.