梅野健 情報学研究科教授、岩田卓也 同修士課程学生らの研究グループは、熊本地震を対象に、複数のGPS衛星観測局から地震発生前のデータのみを用いて電離圏電子数異常を捉えるデータ解析(相関解析法)を行いました。さらに、宇宙天気による電離圏電子数異常と区別する評価指標を新たに導入することにより、熊本地震に由来する電離圏電子数異常を、同地震発生1時間前から発生直前にかけて、明瞭に捉えることに成功しました。
本研究成果は、2017年2月24日付で米国地球物理学会の科学誌「Journal of Geophysical Research:Space Physics」に掲載されました。
研究者からのコメント
今回の熊本地震本震のような内陸型直下地震は、震源付近の地中での異変が生じていたことが解っており、今後、これらの電離圏と地圏で発見された大地震発生前の「異常の証拠」の因果関係を突き詰めることで、大地震発生直前の電離圏異常が生じる物理的メカニズムの解明がさらに進むことが期待されます。
また、防災・減災に資するマグニチュード7級以上の大地震直前の電離圏異常検知システムとしての有効性を確認するため、今後は、関係省庁、地方自治体、エネルギー系・交通系・ネットワーク系インフラ企業の協力を募り、より大規模な実証実験を行い、スマホや自動運転車など地球上どこでも利用できるGNSS型の防災•減災システムの提案およびその実用化につなげていきたいです。
概要
2011年3月11日14時46分(日本時間)に発生したマグニチュード9.0の東北地方太平洋沖地震や、その前震・余震といったマグニチュード7級以上の沖合地震においては、地震発生直前の電離圏電子数異常が発見されていましたが、熊本地震のようなマグニチュード7級以上の内陸直下型地震の直前に、内陸直下型地震特有の電離圏異常が発生していたかどうかは、専門家によって意見が分かれていました。
熊本地震の発生2日前の4月14日午前1時頃にも、宇宙天気由来のMSTID(中規模伝搬性電離圏擾乱)による電離圏異常が観測されており、熊本地震発生直前1時間前の2016年4月16日午前0時25分頃から観測される電離圏異常が、地震由来の異常なのか宇宙天気によるものなのか、識別が困難でした。
そこで本研究グループは、2011年東北地方太平洋沖地震の本震、前震、余震に適用し、大地震直前の電離圏異常を捉えることに成功した、GNSS(Global Navigation Satellite System:全地球航法衛星システム)を基礎とする多点観測型解析手法(相関解析)を、熊本地震にも適用しました。
その結果、熊本地震発生の1時間前から発生直前にかけて、電離圏異常が生じていることが分かりました。宇宙天気による電離圏異常と地震発生特有の電離圏異常を明瞭に区別して、マグニチュード7級以上の内陸直下型地震発生直前の電離圏異常を検出したのは初めてです。
図:熊本地震発生時刻の2016年4月16日午前1時25分の40分前、午前0時45分に観測された電離圏電子数異常の全国規模の相関解析結果。黒の×が震源地を示し、赤色の点が異常と判定された位置を表す。
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】 http://doi.org/10.1002/2017JA023921
Takuya Iwata, Ken Umeno. (2017). Pre-seismic ionospheric anomalies detected before the 2016 Kumamoto earthquake. Journal of Geophysical Research: Space Physics.
- 産経新聞(3月1日夕刊 8面)、中日新聞(3月1日 5面)および日刊工業新聞(3月1日 25面)に掲載されました。