浅野卓 工学研究科准教授、野田進 同教授(光・電子理工学教育研究センター長)、大阪ガス株式会社は共同で、熱エネルギーを太陽電池が効率よく発電できる波長の光に変換することに初めて成功しました。これにより、熱エネルギーを利用した発電技術の効率向上が期待できます。
本研究成果は、2016年12月24日に米国科学雑誌「Science」の姉妹紙である「Science Advances」に掲載されました。また、同年2月には光学に関連する世界最大級の国際会議SPIE Photonics WESTにおいて、持続可能社会の実現に寄与する革新的な研究に与えられる賞「Green Photonics Awards」を受賞しました。
研究者からのコメント
本研究は、半導体シリコンを用いた新たな熱輻射制御手法を提示し、その有効 性を示したもので、太陽電池が発電可能な波長の光に熱輻射を集中できます。2006年頃から続けてきた熱輻射制御の研究がさまざまな関係者の努力によって進展し 、ついに熱エネルギーの可視-近赤外光への集中的変換が可能に なったことは大変感慨深いです。
概要
一般に、物質を加熱すると物質内部の電子の熱運動が激しくなり、さまざまな波長の光を放出(熱輻射)するようになります。熱輻射の一種である太陽光も、可視光線だけでなく、紫外線や赤外線などさまざまな成分を含んでいます。一方、一般的な太陽電池が効率よく電気に変換できる光は、太陽光の広い波長成分のごく一部、可視光線と近赤外線の境界付近の光のみで、他の成分は有効に利用できません。そのため、一般的な太陽電池の発電効率は20%前後に留まっていました。
これまで本学の研究グループは、熱輻射を自在に制御することが、さまざまな応用におけるエネルギー利用効率向上の鍵であると考え、加熱したときに特定の波長の光のみを発生させる技術の開発等に取り組んできました。そして2012年には熱輻射を中赤外線領域の単一波長に制御することに成功し、また2014年には熱輻射の高速変調にも成功しています。
一方で、大阪ガスは、さまざまなエネルギーの変換・利用方法について従来から研究を行っています。中でも熱エネルギーの有効利用のために熱輻射を制御する技術に注目していたことから、2013年より本学と共同で本研究を進めてきました。
今回の共同研究では、シリコンという半導体材料を用いてフォトニックナノ構造を形成することで、高温にしたときに太陽電池が効率よく発電できる波長の光だけを放出する熱輻射光源を開発することに成功しました。太陽光を集光して本光源を加熱した場合、集められた光エネルギーのすべてが太陽電池にとって有効に利用できる光に変換されて放出されます。そのため、その光を太陽電池で受けて発電すると40%以上の非常に高い効率が期待されます。また、熱源は太陽熱に限られないため、燃焼熱等を用いても同様に高効率な発電を行うことができます。
書誌情報
【DOI】 http://dx.doi.org/10.1126/sciadv.1600499
【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/217701
Takashi Asano, Masahiro Suemitsu, Kohei Hashimoto, Menaka De Zoysa, Tatsuya Shibahara, Tatsunori Tsutsumi, Susumu Noda. (2016). Near-infrared–to–visible highly selective thermal emitters based on an intrinsic semiconductor. Science Advances, 2(12):e1600499.
- 京都新聞(12月24日 24面)、日刊工業新聞(12月27日 21面)および日本経済新聞(12月26日 13面)に掲載されました。