カニクイザルの始原生殖細胞は羊膜で形成される -霊長類における精子・卵子の起源と形成機構の解明-

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公開日

斎藤通紀 医学研究科教授、佐々木恒太郎 同特定研究員らは、カニクイザル着床後胚を用いた研究で生殖細胞の起源が初期羊膜に由来することを発見しました。マウスを用いた研究から、哺乳類の生殖細胞は共通して胚体外胚葉から誘導されると考えられていましたが、霊長類では異なることを示した初めての成果です。

本研究成果は、2016年10月7日午前1時に米国の科学誌「Developmental Cell」に掲載されました。

研究者からのコメント

左から、斎藤教授、佐々木特定研究員

本研究は、霊長類における生殖細胞の形成機構を初めて明らかにすると同時に、過去半世紀以上にわたってブラックボックスであった霊長類の初期発生機構の一端を明らかにしました。また、本研究で得られた生殖細胞形成に関する知見はヒト多能性幹細胞から人工的に生殖細胞を誘導する際の重要な基盤となると考えられます。

本研究成果のポイント

  • サル始原生殖細胞(精子および卵子の源となる細胞)は初期羊膜(胎児と羊水を包む胚膜の最も内層を構成する膜)にて形成されることを発見
  • サル生殖細胞形成に重要なシグナル分子の発現分布を解明
  • サル始原生殖細胞の形成から前精原細胞(オスの胎児精巣において、周囲の体細胞から刺激を受け、始原生殖細胞より分化する細胞群)分化に至るまでを包括的に動態解析
  • 形成初期から生殖巣に移動するまでのサル始原生殖細胞の網羅的遺伝子発現動態を解明

概要

生殖細胞とは精子や卵子に分化し、受精を通じて新しい個体を生み出し、遺伝情報を次世代に継承することができる細胞群を指します。これまでマウスを用いた研究で、哺乳類の生殖細胞は、すべての体細胞や羊膜の源となる胚体外胚葉(エピブラスト)から誘導されることが知られてきました。この過程は哺乳類で共通と考えられてきましたが、哺乳類の初期発生機構には多様な部分もあり、霊長類で実際にどのように生殖細胞が形成されるかは不明でした。

妊娠初期(胎齢2-3週)におけるヒト胚の解析は倫理的にきわめて困難であることから、本研究グループはカニクイザルを霊長類のモデルとして用いました。まず、技術的に単離が比較的容易なサルの胎児期の生殖巣(精巣・卵巣)を用いて免疫蛍光染色を行い、生殖細胞に特異的に発現するマーカーを複数同定しました。次にそれらのマーカーを用いて、着床後間もない胚(胎齢11日)における生殖細胞の動態を解析しました。

その結果、カニクイザルでは、生殖細胞はエピブラストではなく胎齢11日胚の初期の羊膜から誘導されることが判明しました。また、ヒトiPS細胞から誘導したヒト始原生殖細胞様細胞は、カニクイザルの初期始原生殖細胞と類似することがわかりました。ヒトとカニクイザルではその初期発生機構が非常に良く似ていることから、ヒトでも生殖細胞は初期の羊膜から誘導されることが示唆されます。

図:初期羊膜に形成された始原生殖細胞

カニクイザル胎齢11日胚における形成された直後の始原生殖細胞。生殖細胞マーカーであるTFAP2C(赤い蛍光)とSOX17(緑の蛍光)を両方発現する始原生殖細胞(黄色の蛍光)が羊膜に分布している。

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】
http://dx.doi.org/10.1016/j.devcel.2016.09.007

Kotaro Sasaki, Tomonori Nakamura, Ikuhiro Okamoto, Yukihiro Yabuta, Chizuru Iwatani, Hideaki Tsuchiya, Yasunari Seita, Shinichiro Nakamura, Naoto Shiraki, Tetsuya Takakuwa, Takuya Yamamoto, Mitinori Saitou. (2016). The Germ Cell Fate of Cynomolgus Monkeys Is Specified in the Nascent Amnion. Developmental Cell, 39.

  • 科学新聞(10月14日 4面)に掲載されました。