櫻庭陽子 霊長類研究所研究員らの研究グループは、脊髄の病気で首から下が麻痺してしまったオスのチンパンジー「レオ」が、リハビリにより自力で歩けるようになったケースを通じて、障害を負った動物へリハビリを行える可能性があると明らかにしました。
2016年5月5日に本研究成果は国際学術雑誌「プリマーテス」に掲載されました。
研究者からのコメント
今回の成果は麻痺したチンパンジーのリハビリに専用プログラムを実施した初めてのケースです。今後、こうしたリハビリテーションプログラムのデザインには、それぞれの動物の個性と身体的な状態を考慮した上での調整が必要かと思われます。また、飼育下で傷ついた動物にとって安楽死以外の選択肢があることは重要だと考えます。
概要
霊長類研究所では、チンパンジーの認知研究のため、日頃からコンピューターのタッチスクリーンを使用した課題を導入しています。
レオは、かつてタッチスクリーンを使った認知課題を経験しており、課題を解くとご褒美として食べ物を受け取るというやり方に慣れていたため、本研究グループは、この技術をさらに進め、レオが自発的に歩くことができるよう回復させることを試みました。
本研究グループは、コンピューターのタッチパネルを部屋に設置し、認知課題を与え、レオが課題を解くと、部屋の反対側に置かれたトレイにご褒美の食べ物が出るというシステムを開発しました。レオはこのリハビリセッションに自発的に取り組み、2時間の間に500 m も歩くようになりました。
今回実施した認知課題は、身体障害をもつチンパンジーのリハビリと福祉の向上に役立つことを示しました。
14か月間寝たきりになってから、ロープを持って起き上がるレオ (提供:霊長類研究所)
詳しい研究内容について
レオがリハビリと歩行を行う様子(2012年12月19日撮影)
レオが歩行する様子(2015年12月撮影)
書誌情報
【DOI】
http://dx.doi.org/10.1007/s10329-016-0541-3
Yoko Sakuraba, Masaki Tomonaga, Misato Hayashi. (2016). A new method of walking rehabilitation using cognitive tasks in an adult chimpanzee (Pan troglodytes) with a disability: a case study. Primates, 57: 403–412.
- 朝日新聞(9月15日 29面)に掲載されました。