大場史康 工学研究科准教授(現東京工業大学教授)、日沼洋陽 同特定助教、田中功 同教授、平松秀典 東京工業大学准教授、細野秀雄 同教授らの研究グループは、最先端の第一原理計算を用いたスクリーニングと高圧合成実験により、希少元素を含まず、赤色発光デバイスや太陽電池への応用が期待できる新しい窒化物半導体を発見しました。
本研究成果は2016年6月21日に英国の科学誌「ネイチャー・コミュニケーションズ(Nature Communications)」に掲載されました。
研究者からのコメント
この成果は窒化物半導体の応用の可能性を広げるだけでなく、先進計算科学に基づいたマテリアル ズ・インフォマティクスにより物質探索を加速できることを実証したものです。本アプローチは今後の材料開発において有力な手法になると期待されます。
本研究成果のポイント
- 発光デバイスや太陽電池への応用に期待
- マテリアルズ・インフォマティクスが物質探索を加速できることを実証
- 窒素化合物に限らず新物質開拓の新たな道を開く。
概要
昨今の資源・環境問題やエネルギー情勢を背景に、地球上に豊富に存在する元素により構成され、卓越した機能はもちろん、安価で高い環境調和性をもつ新物質・新材料の開拓が望まれています。物質・材料探索では、元素の種類と組成の無限の組み合わせの中で可能な限り広く探索し、そこから有望な候補を的確に絞り込むための指針と手法が要となります。
近年の計算科学の進展とスーパーコンピュータの演算能力の向上により、物質の安定性や特性を高精度かつ網羅的に理論予測できるようになってきました。このような先進計算科学、さらにはデータ科学や合成・評価実験に基づいたスクリーニングにより物質・材料開発の加速を目指した「マテリアルズ・インフォマティクス」が世界各国で盛んになっています。
数ある物質の中でも、窒化物は半導体としての応用に適した電子・光学物性だけでなく、地球上に豊富に存在する窒素の化合物というメリットをもちます。
しかし、現在実用化されている窒化物半導体は、緑色や青色、紫外線の発光ダイオードに用いられる窒化ガリウムと窒化インジウムまたは窒化アルミニウムとの固溶体にほぼ限定されています。また、既存の赤色や黄色の発光ダイオードには、高コスト、希少、あるいは使い捨てや廃棄が容易でない元素が使用されています。
希少元素を含まず、伝導キャリア(電子や正孔)の輸送特性に優れ、さらには太陽光をはじめ、人類にとって有用な光の波長領域のバンドギャップをもつ、新しい窒化物半導体が開発できれば、赤色の発光デバイスや太陽電池など、窒化物半導体のより広範な応用が期待できます。
本研究グループは最先端の第一原理計算を用いたスクリーニングによる効率的な物質選定と高圧合成実験の連携により、このような窒化物半導体を見いだしました。
図:本研究により見いだされた新窒化物半導体CaZn 2 N 2 の結晶構造と赤色発光の写真
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】
http://dx.doi.org/10.1038/ncomms11962
【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/215700
Yoyo Hinuma, Taisuke Hatakeyama, Yu Kumagai, Lee A. Burton, Hikaru Sato, Yoshinori Muraba, Soshi Iimura, Hidenori Hiramatsu, Isao Tanaka, Hideo Hosono & Fumiyasu Oba. (2016). Discovery of earth-abundant nitride semiconductors by computational screening and high-pressure synthesis. Nature Communications, 7:11962
- 科学新聞(7月1日 4面)、毎日新聞(7月28日 17面)に掲載されました。