植田充美 農学研究科教授、立上陽平 同博士課程学生らの研究グループは、植物の生育に影響を与える根粒菌による根粒数調節機構を発見しました。根粒菌の改変により根粒数を人工的に調節することで各種農作物の効率的な生産への応用が期待されます。
本研究成果は英国時間2016年6月16日午前10時にNature Publishing Group社の学術誌「Scientific Reports」に掲載されました。
研究者からのコメント
我々が開発したプロテオミクス網羅的解析手法により、根粒菌が根粒内でジベレリンを合成し、宿主の根粒形成数を制御していることが明らかになりました。細菌でのジベレリン合成遺伝子・合成経路の発見は世界で初めてです。根粒菌が主体的に宿主の根粒数を変化させるという従来の説とは「主従逆転」の現象の発見です。根粒菌の改変により、これまで夢でもありました各種植物対して効率的な生育にも寄与できるかも知れません。
概要
根粒菌はマメ科植物と共生し、根粒を形成し、その中で窒素固定を行います。根粒は多ければ良いというものではなく、数の調節はマメ科植物の健全な生長に極めて重要です。これまで、根粒数の調節は宿主によって行われるとされてきました。
本研究では、プロテオミクスというタンパク質発現につきまして、本研究グループが開発してきました網羅的解析手法により同定したミヤコグサ根粒菌「 Mesorhizobium loti (以下、 M. loti )」の共生状態でのみ発現する遺伝子群に着目しました。
この遺伝子群を破壊した株では、宿主と共生させた際に根粒数が有意に増加することを発見しました。さらに、その遺伝子群により植物ホルモンであるジベレリンが合成されることも発見し、 M. loti でどのようにジベレリンが合成されるのか、その経路も決定しました。微生物におけるジベレリン合成遺伝子と合成経路を特定したのは世界初です。
M. loti がジベレリンを合成することで根粒数を一定の数に規定し、最適な窒素固定環境を構築することも発見しました。さらに、この根粒数調節機構は一部の根粒菌と対応するマメ科植物の間で共進化的に獲得されてきた形質であるという示唆も得ました。本研究で同定された根粒数制御機構は、マメ科植物―根粒菌相互作用の主従を考え直す必要を暗示し、農作物の効率的な栽培技術への応用に進展する可能性が考えられます。
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】
http://dx.doi.org/10.1038/srep27998
【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/215071
Yohei Tatsukami & Mitsuyoshi Ueda. (2016). Rhizobial gibberellin negatively regulates host nodule number. Scientific Reports 6, Article number: 27998
- 京都新聞(6月17日 25面)に掲載されました。