※ 動画非公開化のため削除しました。(2022年8月24日)
伊藤喜宏 防災研究所准教授、望月公廣 東京大学地震研究所准教授らの研究グループは、海底に設置した圧力計を用いてニュージーランドのヒクランギ沈み込み帯で発生する、遅い速度で断層が滑る地震「スロースリップ」現象の精密な観測に世界で初めて成功し、これまでの推定よりも沈み込み帯の浅い部分でスロースリップを発見しました。
この観測で、海底付近で確認されたスロースリップの分布域に1947年に発生した津波地震(マグニチュードに比べ大きな津波が起こる地震)の震源域と重なる部分があることが分かり、潜在的な津波災害の可能性評価につながることが期待されます。
本成果は、2016年5月6日付で米国科学誌「Science」に掲載されました。
研究者からのコメント
スロースリップが観測された海域では、2018年に海底掘削が計画されています。将来、日本の地球深部探査船「ちきゅう」による掘削も検討されている地域です。今後は、掘削による地質学・物質科学的描像と地震・測地観測で得られるスロースリップの知見を併せて理解することで、スロースリップの根底にあるメカニズムの理解を目指します。
概要
スロースリップは、通常の地震と比べてゆっくりと破壊が進行する現象です。2011年の東北地方太平洋沖地震直前にも、スロースリップは観測され、スロースリップ域が本震時に再び大きくずれ動くことで甚大な津波被害の一因にもなりました。
しかし、一般に沈み込み帯の浅部(海溝付近)で発生するスロースリップの観測は困難なため、スロースリップそのものの理解は未だ不十分で、これまでニュージーランドの陸上に設置されているGPS観測点で観測されていましたが、その詳細についてはスロースリップのすべり域のほとんどは海底下にあるため十分知られていませんでした。
そこで、本研究グループは、ヒクランギ沈み込み帯において海底圧力計を用いた海底地殻変動観測を実施し、2014年9月に発生したスロースリップを観測することに成功しました。解析の結果、これまで陸上の観測網から推定されていたスロースリップの断層より海側の浅い部分までスロースリップの断層が広がっていることが分かりました。
今回得られた結果により、プレート境界浅部のスロースリップ域の一部は、1947年にヒクランギ沖で発生した津波地震の震源域と一致することが分かりました。すなわち、スロースリップ域が津波地震の震源域となる可能性があり、現在、海底ケーブル式の海底圧力計の整備が進められ、スロースリップのリアルタイム観測が可能となりつつある南海トラフや日本海溝での津波地震の発生のポテンシャルを評価するにあたり、浅部のスロースリップの発生状況のモニタリングやプレート間の固着状況の調査・研究の重要性を改めて示すこととなりました。
また、スロースリップのすべり量が沈み込む海山の位置で小さくなっているため、海山がスロースリップに対してすべりを抑制する「バリアー」として働いている可能性も示されました。これは、沈み込んだ海山周辺の海域における地震・地殻変動観測に加え、海底掘削によるプレート境界断層物質の調査によって、詳細なプレート境界の性質を明らかにします。例えば紀伊水道沖南海トラフに沈み込んでいる海山の南海地震の断層すべりに対する影響の予測など、数値シミュレーションの精度向上による地震・津波被害軽減への貢献が期待されます。
詳しい研究内容について
※動画削除
Credit: Elizabeth Brenner, Scripps Institute of Oceanography
- 朝日新聞(5月6日 13面)、京都新聞(5月6日夕刊 10面)、日本経済新聞(5月9日 13面)、読売新聞(5月6日 13面)に掲載されました。