佐藤文彦 生命科学研究科教授と南博道 石川県立大学准教授、中川明 同博士研究員らのグループにより、これまでに大腸菌を用いて再構築してきた植物の有用物質生合成系に、さらに代謝工学的な改変を加えることにより重要な医薬品であるモルフィナンアルカロイドの一つテバインを簡単な素材であるグルコース等から生産する方法が確立されました。
本研究成果は、2016年2月5日、日本時間19時発行の「Nature Communications」に掲載されました。
研究者からのコメント
今回の成果は、昨年、合成生物学の大きな成果としてNature誌の10大ニュースに取り上げられた酵母を用いたテバインの生産性0.0064mg/Lを大きく上回り、困難である有用モルフィナンアルカロイドの工業的生産の可能性を大きく高めるものです。また、テバインアルカロイドに限らず、より実用的な医薬品であるハイドロコドンの微生物生産の可能性も示すことに成功しており、合成生物学による医薬品生産の新たな可能性を示しました。
概要
ケシは、さまざまな薬効を示す多様な化合物の一群を産生します。これらの化合物のなかでも、鎮痛薬として用いられるモルヒネに代表されるモルフィナンアルカロイドは、アヘン等の麻薬として不正利用されることから、その栽培利用は厳しく管理されています。こうした規制が必要な有用医薬品をより厳密な管理の元で、かつ、効率的に生産することを目指して、微生物によるモルフィナンアルカロイドの生産系の開発を行ってきました。
今回、そのモルフィナンアルカロイド生合成の出発物質である R -体のレチクリンを生産させるように微生物(大腸菌)プラットホームを改変するとともに、 R -レチクリンからテバインを合成するケシの生合成酵素遺伝子を組み込んだ微生物プラットホームを確立し、これらのプラットホームをこれまでに作成したアルカロイド生産プラットホームと組み合わせることにより、特別の基質の添加を必要とせず、モルフィナンアルカロイドであるテバインを生産する微生物発酵生産システムを確立しました。また、麻薬の不正な発酵生産リスクへの対応については我々が開発した微生物プラットホームでは、異なる菌株を組み合わせることが必要であり、より高度の発酵生産技術が必要となるため、酵母で懸念されているような合成生物学の不正利用のリスクは極めて低いと考えています。
詳しい研究内容について
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.1038/ncomms10390
[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/204378
Akira Nakagawa, Eitaro Matsumura, Takashi Koyanagi, Takane Katayama, Noriaki Kawano, Kayo Yoshimatsu, Kenji Yamamoto, Hidehiko Kumagai, Fumihiko Sato & Hiromichi Minami
"Total biosynthesis of opiates by stepwise fermentation using engineered Escherichia coli"
Nature Communications 7, Article number: 10390 Published 05 February 2016