原子層レベルの厚さの超伝導体における量子状態を解明 -乱れのない2次元超伝導体の本質理解とナノエレクトロニクス開発の礎-

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笠原裕一 理学研究科准教授らの研究グループは、岩佐義宏 東京大学工学系研究科附属量子相エレクトロニクス研究センター・物理工学専攻教授(理化学研究所 創発物性科学研究センター 創発デバイス研究チーム チームリーダー兼任)、同研究科物理工学専攻の斎藤優 大学院生らの研究グループ、叶劍挺 フローニンゲン(Groningen)大学(オランダ)准教授、野島勉 東北大学金属材料研究所准教授らと共同で、セラミック半導体の一種でかつ原子膜材料である層状窒化物・塩化窒化ジルコニウム(ZrNCl)高品質単結晶をスコッチテープで劈開する方法を用いて不純物の極めて少ない薄膜を作製し、さらにイオン液体を絶縁層として用いる電気二重層トランジスタ(EDLT)構造を形成することにより、ZrNCl表面に原子層レベルの厚みを持ち、乱れの極めて少ない究極の2次元超伝導が発現することを見出しました。

本研究成果は、米国科学雑誌「Science」のオンライン速報版(ScienceXpress平成27年10月1日版)に掲載されました。

研究者からのコメント

笠原准教授

今回、電界効果という人工的な手法によって、原子層レベルの厚みを持ち、乱れの極めて少ない究極の2次元超伝導が実現することが実証されました。2次元超伝導体の本質を理解するための礎となるだけでなく、新しい超伝導現象を開拓するための足がかりとなると期待されます。

概要

超伝導体はリニアモーターカーや核磁気共鳴(NMR)などに用いられる先端的な材料として、世界中で応用研究が盛んに行われていますが、特に近年のナノエレクトロニクスの発展に伴い、ナノ材料としての超伝導体の側面を持つ超伝導薄膜や超伝導細線の研究が注目を集めています。このうち超伝導薄膜の研究は、1970年代から続いていますが、その対象物質はビスマス薄膜などの非晶質、または不純物や欠陥などの乱れを多く含む金属蒸着膜であったため、乱れのない理想的な2次元超伝導体が本来持つ性質は未だに明らかになっていませんでした。

笠原准教授らはセラミック半導体の一種でかつ原子膜材料である層状窒化物・塩化窒化ジルコニウム(ZrNCl)高品質単結晶をスコッチテープで劈開する方法を用いて不純物の極めて少ない薄膜を作製し、さらにイオン液体を絶縁層として用いる電気二重層トランジスタ(EDLT)構造を形成することにより、ZrNCl表面に原子層レベルの厚みを持ち、乱れの極めて少ない究極の2次元超伝導が発現することを見出しました。さらに磁場下における超伝導の性質を詳細に調べた結果、乱れが極めて少ない超高品質の2次元超伝導体は、磁場下において極低温であっても量子ゆらぎによってその超伝導状態(電気抵抗ゼロの状態)を維持できないことが明らかになりました。これらの研究成果は、今後、2次元超伝導体の本質的な性質を解明していく上での礎となるだけでなく、次世代のナノエレクトロニクス材料の研究・開発をしていく上で重要な知見を与えるものと期待されます。

ZrNCl-EDLTにおける面直磁場下における抵抗-温度特性(A)との磁束相図(B)
Aは、さまざまな面直磁場下におけるZrNCl-EDLTの抵抗温度特性である。0.05Tという微弱な磁場を印加するだけで超伝導状態が壊れている(赤線の左のオレンジ線のデータ)。電気抵抗の詳細な解析を行い、この様子をまとめたものがBの温度-磁場相図(磁束相図)である。超伝導転移温度以下であるにも関わらず、磁場下においては磁束の運動によってほとんどすべての領域で金属状態が実現している。オレンジの領域は熱ゆらぎ由来の金属領域で青の領域は量子ゆらぎ由来の金属領域である。

詳しい研究内容について

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1126/science.1259440

Yu Saito, Yuichi Kasahara, Jianting Ye, Yoshihiro Iwasa, Tsutomu Nojima
"Metallic ground state in an ion-gated two-dimensional superconductor"
Science, Published Online: October 1, 2015