生きたマウス脳内の細胞内RNA活動の可視化に成功 -早くて正確な製薬時のスクリーニングなど応用に期待-

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王丹 物質-細胞統合システム拠点(iCeMS=アイセムス)特定拠点助教らの研究グループは、生きたマウスの脳において特定のRNAを蛍光標識し、その細胞内での局在や、薬剤応答動態を可視化することに成功しました。

本研究成果は2015年6月22日(英国時間)に英国の科学雑誌「Nucleic Acids Research」で公開されました。

研究者からのコメント

今後は、生きた個体の細胞内でのRNAの集まりが環境応答によってどのように出現・消失するのか、何がそれを制御するのか、正常な組織と疾患にかかった組織でどのように異なっているのかを明らかにすることで、生きた組織・個体での遺伝子発現のメカニズムおよび疾患をもたらすRNAの動きの解明に繋げていきたいと考えています。

概要

細胞内で、RNAはそれぞれ独自の局在を示しながら機能しています。この局在は環境変化や疾患によって変化しますが、局在変化によって、RNAは本来の機能を果たせなくなり、細胞の健康状態が損なわれてしまうと考えられています。しかしながら、RNAの集まりがどのように細胞の中で制御されているのか、どのようにして異常がもたらされるかは未だ解明されていません。

本研究グループは、生きたマウスの脳内へ、生体に害のない点灯型蛍光プローブを導入することで、生きた組織において細胞核内の特定のRNAの動きを可視化することに成功しました。このプローブは、目的RNAの濃度によって蛍光の強さが変わるため、生体内で標識したRNAの定量的な評価にも応用できます。また、このイメージング手法により、薬剤を投与したときの細胞内でのRNAの動きが生体組織内の細胞と培養された細胞とで異なることが初めて定性的に示されました。新しいイメージング手法は、遺伝子操作を必要としない生体内でのRNAの集まりの出現や消失といった「RNA本来の振る舞い」を研究する手法として期待されます。 さらにこれにより、製薬時のスクリーニングを早く、正確に行うことにも役に立ちます。


新しい標識法の概要。目的RNAの有無により、蛍光のオン・オフができるプローブを組織に打ち込み、電流を流すことで、細胞内にプローブを導入する。この標識法で、今まで見えなかった生きた組織内での細胞内RNAの集まりが観察できるようになった。右下の図では、小脳の細胞核内で顆粒状に局在するRNAの様子が示されている。

詳しい研究内容について

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1093/nar/gkv614

[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/198594

Ikumi Oomoto, Asuka Suzuki-Hirano, Hiroki Umeshima, Yong-Woon Han, Hiroyuki Yanagisawa, Peter Carlton, Yoshie Harada, Mineko Kengaku, Akimitsu Okamoto, Tomomi Shimogori, and Dan Ohtan Wang
"ECHO-liveFISH: in vivo RNA labeling reveals dynamic regulation of nuclear RNA foci in living tissues"
Nucleic Acids Research, First published online: June 22, 2015

※ 物質-細胞統合システム拠点(iCeMS=アイセムス)は、文部科学省「世界トップレベル研究拠点(WPI)プログラム」に平成19年度に採択さ れた拠点です。WPIプログラムは、第一線の研究者が是非そこで研究したいと世界から多数集まってくるような、優れた研究環境ときわめて高い研究 水準を誇る「目に見える研究拠点」の形成を目指しています。