上田佳宏 理学研究科准教授、志達めぐみ 同博士後期課程学生(現理化学研究所研究員)とロシア特別天体物理観測所の研究者からなる研究チームは、謎の天体「超高光度X線源」のうち4天体をすばる望遠鏡で観測し、その全てから、ブラックホールがガスを一気に呑みこむ時の反動で、大量のガスが放出されている証拠を捉えました。この事実は、これら天体がいずれも「意外に小さな」ブラックホールであり、銀河系内の特異天体SS 433と同類であることを裏付けます。この成果は、長年の論争の的であった超高光度X線源の正体について重要な知見を与え、ブラックホールへのガスの「落ち方」の理解にもインパクトを与えるものです。
本研究成果は英国物理学誌「ネイチャー・フィジックス」誌のオンライン版に2015年6月1日付け(日本時間6月2日午前2時)で掲載されました
研究者からのコメント
今回の成果は、X線天文学と可視光天文学の連携で得られたものです。しかし、超高光度X線源とSS 433の正体が、完全に解明されたわけではありません。本年度打ち上げ予定のASTRO-Hや将来のより高感度なX線天文衛星を用いたX線観測、および多波長観測を進めることで、最終的にこれらの謎を解決していきたいと考えています。
概要
私たちの近くの銀河をX線で観測すると、銀河の中心からはなれた位置に、太陽の100万倍以上もの明るさで輝く天体が見つかることがあります。これらの天体は、例外的なX線の明るさから「超高光度X線源」(UltraLuminous compact X-ray source, ULX)と名付けられ、その正体は長きにわたって論争の的となっています。その大部分は、星とブラックホールが重力によりお互いの回りを回っている「連星」と考えられます。最大の論点が、そのブラックホールの大きさです。銀河系内で見つかっている同種のブラックホールの質量は、せいぜい太陽の20倍程度ですが、超高光度X線源はこれらよりおよそ100倍以上も明るいのです。これらを説明するために、大きく分けて(1)太陽のおよそ1000倍以上の質量をもつブラックホールとする説と、(2)太陽のおよそ100倍以下の「小さな」ブラックホールが理論限界を越えて大量のガスを呑みこんでいるとする説の二つが提唱されてきました。
研究グループは、四つの銀河にある超高光度X線源(ホルムベルクII X-1、ホルムベルクIX X-1、NGC 4559 X-7、NGC 5204 X-1)を、すばる望遠鏡のFOCAS装置を用いて合計4晩にわたって観測しました。研究グループは、さまざまな可能性を考慮した結果、これらが「小さなブラックホールに大量のガスが一気に流れ込んでおり、その反動で、一部のガスが降着円盤風として放出されている」証拠であると結論づけました。
超高光度X線源(上)とSS 433(下)の構造および視線方向。ブラックホール近くの降着円盤は、超臨界流となっており、その内部から強いX線が放射されている。途中から、大量のガスが降着円盤風として吹き出しており、そこからヘリウムイオンや水素の輝線が観測される。
詳しい研究内容について
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.1038/nphys3348
Sergei Fabrika, Yoshihiro Ueda, Alexander Vinokurov, Olga Sholukhova and Megumi Shidatsu
"Supercritical accretion disks in ultraluminous X-ray sources and SS 433"
Nature Physics Published online 01 June 2015