三木健嗣 iPS細胞研究所(CiRA)研究員、遠藤慧 同研究員(現東京大学新領域創成科学研究科)、齊藤博英 同教授、吉田善紀 同講師らの研究グループはマイクロRNAを使って細胞を選別する新しい方法を開発し、高純度な心筋細胞の作製に成功しました。
本研究成果は5月21日正午(米国東部時間)に米国科学誌「Cell Stem Cell」でオンライン公開されました。
研究者からのコメント
人工RNAを細胞に作用させる本研究成果は、ゲノムに傷をつけにくいことと、作用させるRNAの寿命が短く、自然に除去されることが利点であり、再生医療などの臨床においても利用可能と考えらます。今後、幹細胞分野の基礎から臨床まで、幅広い研究での応用が期待できます。
概要
心臓疾患は世界でも最も多い死因の一つであり、iPS細胞やES細胞などを始めとした幹細胞を用いた治療法の開発も進められています。しかし、これまで心筋細胞など目的の細胞種を高純度で得るためには、細胞表面の抗原を識別して細胞を選別するという操作が行われることが一般的でしたが、最適な表面抗原が同定されていない細胞種も多く、細胞を選別することは困難でした。そこで本研究グループは、細胞内のマイクロRNAを検知することで細胞を識別する方法の開発を試みました。
まず、多数のマイクロRNAの集団のなかから、心筋細胞に特徴的なマイクロRNAを同定しました。つぎに、人工のRNAを用いて、目的のマイクロRNAが存在しない時にだけ蛍光タンパク質が光る仕組みを構築しました。また、ここで開発した仕組みを応用し、心筋細胞に特有のマイクロRNAを持たない細胞ではアポトーシスが起こるようにしました。このシステムにより、細胞を一つ一つ機械で選別することなく、高純度に心筋細胞だけを培養することができました。さらに、心筋細胞以外の上皮細胞や肝細胞、インスリン産生細胞といったさまざまな細胞もマイクロRNAの情報を使って同様に選別することができました。
選択的アポトーシスによる心筋細胞の自律的純化(スケールバー:100μm)
詳しい研究内容について
マイクロRNAをつかった細胞の選別方法の開発 ~高純度な心筋細胞の作製に成功~
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.1016/j.stem.2015.04.005
Kenji Miki, Kei Endo, Seiya Takahashi, Shunsuke Funakoshi, Ikue Takei,
Shota Katayama, Taro Toyoda, Maki Kotaka, Tadashi Takaki, Masayuki
Umeda, Chikako Okubo, Misato Nishikawa, Akiko Oishi, Megumi Narita, Ito
Miyashita, Kanako Asano, Karin Hayashi, Kenji Osafune, Shinya Yamanaka,
Hirohide Saito, Yoshinori Yoshida
"Efficient Detection and Purification of Cell Populations Using
Synthetic MicroRNA Switches"
Cell Stem Cell 16 Available online 21 May 2015
- 京都新聞(5月22日 23面)、産経新聞(5月22日 26面)、中日新聞(5月22日 3面)、日刊工業新聞(5月22日 17面)、日本経済新聞(5月22日 42面)および毎日新聞(5月22日 6面)に掲載されました。