実験用ラットを用いて本態性振戦の原因となる遺伝子を発見 -原因不明の「震え」の病態解明に期待-

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庫本高志 医学研究科附属動物実験施設准教授、大野行弘 大阪薬科大学教授らの研究グループは、実験動物のラットを用いて、本態性振戦の原因遺伝子を発見しました。

本研究成果は、2015年5月13日午後2時(米国時間)の米国科学誌「PLOS ONE」に掲載されます。

研究者からのコメント

左から庫本准教授、大野教授

今回の研究成果は、二つの遺伝子が組み合わさることで「震え」がおこるというものであり、本態性振戦の発症の遺伝要因を考えるうえで、新たな概念を提供するものと考えています。

また、私たちが用いた本態性振戦モデルラットは、1980年に医学部の動物実験施設で発見された1頭の「震え」ラットに由来します。今日までの35年間、綿々と継代されてきたこのモデルラットを用いることで、今回の発見につながりました。このような貴重なモデルラットを維持し続けることの重要性を再認識しました。

概要

振戦(不随意の震え)という症状のみが現れ、明らかな原因と考えられる病変は存在しない病態不明の振戦のことを、本態性振戦といいます。本態性振戦は、成人で最も頻繁にみられる神経疾患で、人口の2.5~10%でみられるという統計もあります。主に、上半身(腕や頭部)が震え、患者は、字が書き辛い、道具がうまく扱えないなどといった症状に悩まされます。この本態性振戦の原因として、遺伝の関与が指摘されてきましたが、本態性振戦にかかわる具体的な遺伝子は発見されていませんでした。

今回、本研究グループは、実験動物のラットを用いて本態性振戦の原因遺伝子を発見しました。その遺伝子は、イオンチャネルと脳内分子の分解酵素でした。驚いたことに、個々の遺伝子変異のみでは本態性振戦は発症しません。二つの遺伝子変異が組み合わさると、本態性振戦が発症するのです。

これら二つの遺伝子は、ヒトも持っており、ラットと同様の働きをしていると考えられています。そのため、ヒトの本態性振戦患者においても、これらの遺伝子に変異がある可能性があります。今後は、このモデルラットを用いて、本態性振戦の発症機序が明らかにされ、新たな診断・治療法の開発が期待されます。

これら二つの遺伝子は、ヒトも持っており、ラットと同様の働きをしていると考えられています。そのため、ヒトの本態性振戦患者においても、これらの遺伝子に変異がある可能性があります。今後はこのモデルラットを用いて、本態性振戦の発症機序が明らかにされ、新たな診断・治療法の開発が期待されます。現在では、この本態性振戦モデルラットは、ナショナルバイオリソースプロジェクト「ラット」( http://www.anim.med.kyoto-u.ac.jp/nbr/Default_jp.aspx )というラットセンターで繁殖・維持されており、全世界の研究者に供給できる体制が整えられています。


本態性振戦モデルラット

詳しい研究内容について

実験用ラットを用いて本態性振戦の原因となる遺伝子を発見 -原因不明の「震え」の病態解明に期待-

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1371/journal.pone.0123529

[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/197922

Yukihiro Ohno, Saki Shimizu, Ayaka Tatara, Takuji Imaoku, Takahiro Ishii, Masashi Sasa, Tadao Serikawa, Takashi Kuramoto
"Hcn1 Is a Tremorgenic Genetic Component in a Rat Model of Essential Tremor"
PLOS ONE 10(5): e0123529 Published: May 13, 2015

掲載情報

  • 京都新聞(5月14日 23面)に掲載されました。