自閉症スペクトラム障害で目に見える表情模倣の障害

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義村さや香 医学研究科助教、佐藤弥 同准教授、魚野翔太 同助教、十一元三 同教授らの研究グループは、自閉症スペクトラム障害(Autism spectrum disorder:ASD)群および定型発達群を対象として他者の表情を見ている間の目に見える表情反応を評価しました。その結果、ASD群では目に見えるレベルでの表情模倣の頻度が低下しており、また、表情模倣の頻度が低下するほど社会性の障害が強いことが示されました。

本研究成果は、2015年4月25日に米医学誌「Journal of Autism and Developmental Disorders」(印刷版)に掲載されました。

研究者からのコメント

定型発達者の表情模倣には、模倣された人の模倣した人への印象が変わるという働きだけでなく、模倣した人が表情を理解しやすくなるという働きもあると考えられています。表情の理解は、表情を介したコミュニケーションを行う上で大きな役割を果たしており、今後は、ASD 群を対象として表情模倣が表情理解にどう影響しているか調べる予定です。また、意図的に表情の真似をすることで表情模倣の障害を補えるかどうかについても検討する予定です。これらの研究を進めることで、ASD の社会性の障害に対する効果的な介入方法の確立に役立つ知見が得られると考えます。

概要

ASDは、人口の数パーセントを占めるとされる発達障害で、社会性の障害が主な症状です。特に表情を介したコミュニケーションは、中核的な問題とされています。表情を介したコミュニケーションを円滑にする行動として、他者の表情を見た際に自発的に同じ表情を示すという表情模倣という現象があります。ASDでは目には見えるか見えないかの微細なレベルで表情模倣に障害があることが示されてきました。

しかし、ASDに、実際に他の人が見て分かるレベルで表情模倣の障害がみられるのか、そしてそれが社会性の障害とどのように関係するかについては、まだわかっていませんでした。そこで本研究グループは、ASD群および定型発達群を対象として、他者の表情を見ている間の目に見える表情反応を評価することで、この問題を検討しました。

その結果、ASD群では目に見えるレベル表情模倣の頻度が低下しており、また、表情模倣の頻度が低下するほど社会性の障害が強いことが示されました。これらの知見は、ASDでは他の人が認識できるような表情模倣が起こりにくく、それが社会性の障害に影響していることを示唆します。


図:表情模倣の出現頻度

詳しい研究内容について

自閉症スペクトラム障害で目に見える表情模倣の障害

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1007/s10803-014-2291-7

[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/197725

Sayaka Yoshimura, Wataru Sato, Shota Uono, Motomi Toichi
"Impaired Overt Facial Mimicry in Response to Dynamic Facial Expressions in High-Functioning Autism Spectrum Disorders"
Journal of Autism and Developmental Disorders Volume 45 Issue 5, pp 1318-1328 Published online: 6 November 2014