本庶佑 医学研究科客員教授、徐建梁(Jiangliang Xu) 同研究員、小林牧 同准教授の研究グループは、AID(Activation-induced cytidine deaminase)による免疫グロブリン遺伝子組換えにおいて、多様な機能を持つ酵素APE1がDNA切断以後のDNA末端修復に働く機構を明らかにしました。
本研究成果は、米国科学アカデミー紀要「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America」で発表されました。
研究者からのコメント
APE1は、がんや心血管疾患、神経変性疾患など多様な疾患に関わる酵素です。APE1に対する薬剤が開発されれば、治療面への応用が期待される分子ですが、その複雑な分子機能には未知の部分が多いとされています。今回の研究は、APE1のヌクレアーゼ活性が抗体多様化のメカニズムに必須であることを初めて示したもので、APE1の分子機能の理解に大きく貢献するものであると言えます。
概要
AIDは、免疫グロブリン(Ig)遺伝子のクラススイッチ組換え(Class Switch Recombination:CSR)と体細胞突然変異(Somatic Hypermutation:SHM)には必須の分子であり、DNA切断と切断端の修復という二つの異なる機能を発揮します。しかしながら、AIDにはシチジン脱アミノ活性があるのみで、直接DNA切断や修復を行うものではなく、DNA切断から修復に至るまでの一連の分子メカニズムは明らかではありませんでした。AIDがDNA中のシチジンあるいはRNA中のシチジンを編集するのか、両仮説がありますが、DNAシチジン編集仮説では、編集されて生じるウリジンをUNGが除き、その結果無塩基となったDNA一本鎖をAPE1が切断すると考えられていました。APE1欠損細胞で、実際CSRの効率は野生型の25%ほどに低下していますが、DNA切断は起きているのか、他のAID依存性の現象であるSHMに影響はあるのかについては未解決でした。
そこで、本研究グループは、APE1の免疫グロブリン遺伝子の多様性獲得における機能を検討しました。その結果、APE1はDNA編集仮説で考えられていたような、DNAの無塩基部分を切断するのではなく、DNA末端の平滑化とsynapse形成において必須の機能を担うことが明らかとなり、AIDの作用機序はDNA編集ではなくRNA編集によるものであることが一層強く示されました。
Proposed 3' end processing by APE1 during CSR
詳しい研究内容について
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.1073/pnas.1420221111
Jianliang Xu, Afzal Husain, Wenjun Hu, Tasuku Honjo, and Maki Kobayashi
"APE1 is dispensable for S-region cleavage but required for its repair in class switch recombination"
PNAS published ahead of print November 17, 2014