妻木範行 iPS細胞研究所(CiRA)教授(JST CREST)、岡田稔 同研究員らの研究グループは、骨系統疾患の一つであるⅡ型コラーゲン異常症の患者さんから採取した細胞から、ダイレクトリプログラミングやiPS細胞技術を用いてⅡ型コラーゲン異常症の疾患モデル系を構築しました。
本研究内容は、2014年9月3日に英国科学雑誌「Human Molecular Genetics」で公開されました。
研究者からのコメント
今回、三つのアプローチでⅡ型コラーゲン異常症の疾患モデルを構築しました。一つは患者さんの線維芽細胞からiChon細胞を直接誘導する方法、二つ目は患者さんの線維芽細胞からiPS細胞を樹立し、さらに軟骨細胞へと誘導する方法、最後に患者さんから樹立したiPS細胞をマウスに移植し、軟骨を含む奇形腫を形成させる方法です。
Ⅱ型コラーゲンの小胞体への蓄積やアポトーシス、細胞外マトリックスの異常など、患者さんの体内で見られるような現象が、これら疾患モデルで確認できました。これらの手法を用いることで、他の骨系統疾患についても研究が加速されると期待されます。
ポイント
- Ⅱ型コラーゲン異常症は患者さんから軟骨を得ることが難しいため、病態解析や創薬研究を行うことが難しい。
- 患者さんの線維芽細胞から軟骨細胞を直接誘導する方法(ダイレクトリプログラミング)、iPS細胞を経由する方法、そしてiPS細胞をマウスに移植する方法で疾患モデルを作製した。
- いずれの方法でも、患者さんの病態の一部(小胞体ストレスが生じていること)を再現していた。
概要
軟骨の主要な構成成分の一つはⅡ型コラーゲンです。このⅡ型コラーゲン遺伝子に変異が生じると、骨系統疾患の一つであるⅡ型コラーゲン異常症になります。Ⅱ型コラーゲン異常症は、患者さんから軟骨細胞を手に入れることが難しいため、そのメカニズムを解明することが困難です。
今回の研究で、本研究グループはⅡ型コラーゲン異常症の患者さんの線維芽細胞をダイレクトリプログラミングにより軟骨細胞へと誘導しました(iChon細胞)。Ⅱ型コラーゲン異常症のiChon細胞はII型コラーゲン遺伝子の発現が低く、アポトーシスが顕著に起きていました。小胞体の膨張が検出され、遺伝子発現の低下やアポトーシスは小胞体ストレスによって引き起こされたものと示唆されました。軟骨形成を促進する薬剤でII型コラーゲン遺伝子の発現を上昇させると、逆に軟骨形成が抑えられてしまい、病態を悪化させました。小胞体ストレスを軽減させる作用を持つシャペロン化合物がⅡ型コラーゲンの分泌を増加させ、Ⅱ型コラーゲン異常症由来のiChon細胞のアポトーシスを一部軽減したため、シャペロン化合物が薬剤候補となりうることが示されました。次に、Ⅱ型コラーゲン異常症の患者さんからiPS細胞を作製し、さらに軟骨細胞へと分化させました。患者さん由来の軟骨細胞はアポトーシスを起こし、小胞体ストレスマーカー遺伝子の発現が上昇していました。最後に、Ⅱ型コラーゲン異常症由来のiPS細胞を免疫不全マウスに移植することで奇形腫を作りました。奇形腫内の軟骨組織ではⅡ型コラーゲンが細胞の小胞体内に蓄積し、小胞体が膨張し、細胞外マトリックスは少なく、患者さんの軟骨組織を再現していました。これらのⅡ型コラーゲン異常症モデルは病態生理学的な研究や創薬スクリーニングに有用であると考えられます。
図:患者さん由来の軟骨細胞ではⅡ型コラーゲンの局在と電子顕微鏡像
(左)Ⅱ型コラーゲンの免疫染色(Ⅱ型コラーゲンが茶色に見える)、(右)電子顕微鏡観察像、WT:健常な人由来、ACGII:患者さん由来
詳しい研究内容について
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.1093/hmg/ddu444
Minoru Okada, Shiro Ikegawa, Miho Morioka, Akihiro Yamashita, Atsushi Saito, Hideaki Sawai, Jun Murotsuki, Hirofumi Ohashi, Toshio Okamoto, Gen Nishimura, Kazunori Imaizumi, and Noriyuki Tsumaki
"Modeling type II collagenopathy skeletal dysplasia by directed conversion and induced pluripotent stem cells"
Human Molecular Genetics First published online: September 3, 2014
掲載情報
- 日刊工業新聞(9月17日 25面)および日本経済新聞(9月17日 42面)に掲載されました。