2014年9月10日
Easan Sivaniah 物質-細胞統合システム拠点 (iCeMS)准教授の研究グループは、マイクロポーラスポリマー(PIM)と呼ばれる材料に特殊な熱処理を施し架橋構造を形成することで、世界最高性能のガス分離膜材料を作成することに成功しました。このガス分離膜(TOX-PIM1)は、従来用いられているガス分離ポリマー膜に比べて、ガス透過速度が約100倍(図参照)、ガス選択分離度も約2倍という極めて優れた性能を示しました。
本研究成果は、英国時間9月4日午前10時(日本時間18時)に英国オンライン科学誌「Nature Communications」で公開されました。
研究者からのコメント
今回の研究で、持続的な環境の実現に役立つポリマー材料の精製方法を確立しました。私たちが作ったガス分離膜は安価で耐久性が高く、従来の膜に比べ1000分の1にまで二酸化炭素捕捉コストを削減できます。将来的には企業と連携し、技術を実用化につなげて行けたらと考えています。
概要
日本のエネルギー政策は、東日本大震災における福島原子力発電所の事故を機に、原子力発電から火力発電へと大きくシフトしました。しかし、火力発電は化石燃料を使用しているため、温暖化の原因となる二酸化炭素排出量の増加が大きな問題となっています。このため、火力発電所をはじめとする固定排出源における有効な二酸化炭素分離回収技術の開発は、必要不可欠なものになっています。二酸化炭素を分離回収する際には、排気ガスに含まれる二酸化炭素と窒素をほぼ100%分離しなければなりませんが、現行行われているアミンによる分離方法は分離回収に大量のエネルギーがかかるため、二酸化炭素を回収しながら二酸化炭素を排出するというジレンマがあります。
これに代わるものとして注目を浴びているのが、膜分離技術です。しかし、現在実用化されているガス分離膜は、ガス透過速度と選択分離率が低いため実用化には至ってはいません。実用化にはガス分離膜の性能を激的に上げることが喫緊の課題となっています。
そこで本研究では、PIM1の表面にエーテル結合による架橋構造をもつ薄膜を作成し、砂時計型分子ふるいの入口に当たる部分に、さらなる分離層を作成することでガス選択分離率の向上を試みました。
熱処理の際に、温度だけでなく空気中の酸素組成と圧力を制御した結果、酸素量の可変により架橋密度や厚さを自在にコントロールできることを発見しました。これにより、膜はガス透過速度を損なうことなく、ガス選択率を制御でき、CO2分離、O2分離、H2分離に非常に優れた性能を示しました。また、この共有結合層は、PIM1にゼオライト型のMOF(多孔性配位高分子)やシリカなどを複合させた複合膜にも作成することが可能であり、ガス選択分離率をさらに上昇させることに成功しました。さらに、この架橋構造を持つマイクロポーラスポリマー膜は熱力学的にも非常に安定であり、またさまざまな有機溶媒に対しても耐性があるため、幅広い応用が期待されます。
図:PIM1分離膜(左)と従来用いられているガス分離ポリマーとのガス透過分離速度を比較した様子
PIM1を透過したガスの風船は、従来の膜に比べてガス透過分離速度が圧倒的に速く、大きく膨らんでいることがわかる。
詳しい研究内容について
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.1038/ncomms5813
[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/191074
Qilei Song, Shuai Cao, Robyn H. Pritchard, Behnam Ghalei, Shaheen A. Al-Muhtaseb, Eugene M. Terentjev, Anthony K. Cheetham & Easan Sivaniah
"Controlled thermal oxidative crosslinking of polymers of intrinsic microporosity towards tunable molecular sieve membranes"
Nature Communications 5, Article number: 4813 Published 04 September 2014
掲載情報
- 京都新聞(9月11日 27面)および日刊工業新聞(9月11日 17面)に掲載されました。