2014年8月14日
瀬原淳子 再生医科学研究所教授、佐藤貴彦 京都府立医科大学助教(元再生医科学研究所特定助教)らは、マイクロRNA(miRNA)のmiR-195・miR-497が、骨格筋幹細胞の静止期/未分化状態への移行を誘導することを発見しました。さらに骨格筋幹細胞を試験管培養する際にmiR-195・miR-497を導入し、筋ジストロフィーモデルマウスの骨格筋に移植すると、再生筋への移植能が高まることを見い出し、これらのmiRNAが、試験管内における筋幹細胞の筋再生能の保持に有用であることを示しました。
本研究成果は、8月14日に英国科学誌「Nature Communications」誌にオンライン掲載されました。
研究者からのコメント
私たちの骨格筋には幹細胞が潜んでいます。それは骨格筋が損傷を受けると活性化されて増殖・分化し、新しい骨格筋細胞を作りますが、普段は、骨格筋のそばで眠っています(静止期とよびます)。このような骨格筋幹細胞の活性化や静止期への移行の仕組みには、未だ未解明なところが多いのですが、今回の研究はその一つの手がかりとなるものです。
今回の結果はマウスを用いて明らかになったものであり、ヒトでも同様の機構が働いているか今後調査を進めて行く必要があります。ヒト骨格筋組織より幹細胞を単離し大量に得ることは現時点では困難ですので、iPS細胞などからの骨格筋幹細胞の作成、あるいは少量の骨格筋幹細胞を大量に増やすという再生医療研究に対し、今回のmiRNAの知見が生かされると考えます。そして、からだに本来備わっている再生能力に関する理解を今後さらに深め、幹細胞を用いた疾病の治療や筋萎縮の予防などにつなげたいと思います。
概要
私たちの骨格筋には、高い再生能力があります。それは激しい運動や疾患により筋が損傷しても、骨格筋専用の幹細胞が効率よく修復してくれるからです。この幹細胞には、普段は増殖・分化せず(静止期と呼ばれます)、再生が必要になると活性化され、増殖・分化して新しい筋細胞を作ると同時に、再び幹細胞を産み出して次の再生に備えるという巧妙な仕組みがあります。
本研究は、この幹細胞の静止期への移行を誘導し、未分化状態をもたらすマイクロRNA、miR-195/497の同定に成功したものです。また、筋幹細胞は試験管培養するにつれて幹細胞としての能力(未分化性)を失い、再生筋への移植効率が著しく低下するという問題を抱えています。今回の研究では、筋幹細胞を培養する際miR-195/497を導入すると、増殖を抑え、未分化性を高めることができ、筋ジストロフィーモデルマウスに移植された幹細胞の生着を向上させることができることを報告しました。
骨格筋の幹細胞制御・再生制御の分子・細胞機構のさらなる解明が、今後の幹細胞を用いた治療や予防につながることが期待されます。
miR-195/497を添加して(上段)試験管培養した骨格筋幹細胞を用いての細胞移植実験の概略図
詳しい研究内容について
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.1038/ncomms5597
Takahiko Sato, Takuya Yamamoto & Atsuko Sehara-Fujisawa
"miR-195/497 induce postnatal quiescence of skeletal muscle stem cells"
Nature Communications 5, Article number: 4597 Published 14 August 2014
掲載情報
- 朝日新聞(8月15日夕刊 9面)、京都新聞(8月15日 23面)、産経新聞(8月15日 1面)、中日新聞(8月15日 3面)、日刊工業新聞(8月26日 19面)、日本経済新聞(8月15日夕刊 14面)および読売新聞(8月15日 25面)に掲載されました。