コムギのゲノム配列の概要解読に成功 -コムギの新品種開発の加速化に期待-

ターゲット
公開日

2014年7月18日

コムギゲノムの解読のために、2005年に結成された国際コムギゲノム解読コンソーシアム(IWGSC)に参加している、遠藤隆 名誉教授(農学研究科)、那須田周平 同准教授、農業生物資源研究所、横浜市立大学木原生物学研究所、日清製粉株式会社らの研究グループは、イネの40倍もあるコムギゲノムの塩基配列の概要を明らかにし、コムギのさまざまな特徴を決定する遺伝子を約12万個見出しました。これら遺伝子の機能を解明し、農業上有用な特性に関わる遺伝子の単離や、DNAマーカーの開発を進めることにより、病気に強く栽培しやすい品種などの作出を加速することが可能となります。

本研究内容は、7月18日(米国時間)付けの科学雑誌「Science」にIWGSCとして発表されました。

研究者からのコメント

コムギは世界三大穀類のなかで唯一ゲノム配列が解読できていなかった植物です。今回、本学がナショナルバイオリソースプロジェクト・コムギの中核機関として維持してきた異数体系統(染色体数を操作した実験系統)を用いることで、初めてコムギのゲノム概要配列を決定することが出来ました。コムギの遺伝子のおおよその数と位置を明らかにしているので、今後、農業上有用な遺伝子の特定や品種改良のためのDNAマーカー開発に貢献できるものと期待されます。

IWGSCは、高精度ゲノム参照配列の決定に向け、引き続き共同研究を進めていきます。日本が分担する6B染色体の解析に、染色体を操作した実験系統群の新規開発によって貢献していきます。

概要

コムギは世界第二位の生産量をもつ重要な穀物で、第一位のイネ、第三位のトウモロコシとともに私たち人類の食料基盤を支えています。しかし近年では、地球規模の環境変動や人口増加によって世界のコムギ需給は逼迫しつつあり、「環境の変動に強く、安定して生産できるコムギ品種」や「収穫量が飛躍的に高いコムギ品種」の開発が急務となっています。また、我が国においては、優れた製粉品質を持ち十分な生産量を確保できる良品質高収量の品種や、日本の湿潤な気候等によって多発する穂発芽や赤かび病等に対して十分な耐性を持つ品種の開発が切望されています。

しかし、コムギのゲノムは、イネの40倍と大きく、またコムギゲノムは異なる三種類のゲノムで構成されるため、農業上有用な特性に関わる遺伝子の単離や、DNAマーカーの開発が困難でした。

そこで、IWGSCでは、まずコムギの核から染色体を一対ずつ取り出し、染色体毎に配列の解読を行いました。解読した配列を整列化させたところ、染色体の61%に相当する領域をカバーしていました。また、農業生物資源研究所を中心として行ったイネゲノム研究の成果や、横浜市立大学が収集したコムギ「発現遺伝子情報」を活用し、整列化したコムギのゲノム中に、現時点で124,201個の遺伝子があると推定しました。

今回解読されたゲノム概要配列は解読量が十分に多く、染色体ごとに区別されていることから、コムギの育種効率を一層向上させ、画期的な新品種の開発において、その利用価値は極めて高くなります。

図:複雑で巨大なコムギゲノムを染色体ごとに決定する実験スキーム

詳しい研究内容について

コムギのゲノム配列の概要解読に成功 -コムギの新品種開発の加速化に期待-

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1126/science.1251788

The International Wheat Genome Sequencing Consortium (IWGSC)
"A chromosome-based draft sequence of the hexaploid bread wheat (Triticum aestivum) genome"
Science Vol. 345 no. 6194, 18 July 2014

[DOI] http://dx.doi.org/10.1093/dnares/dst041

Tsuyoshi Tanaka, Fuminori Kobayashi, Giri Prasad Joshi, Ritsuko Onuki, Hiroaki Sakai, Hiroyuki Kanamori, Jianzhong Wu, Hana Simková, Shuhei Nasuda, Takashi R. Endo, Katsuyuki Hayakawa, Jaroslav Dolezel, Yasunari Ogihara, Takeshi Itoh, Takashi Matsumoto, and Hirokazu Handa
"Next-Generation Survey Sequencing and the Molecular Organization of Wheat Chromosome 6B"
DNA RESEARCH 21(2), pp. 103–114, June 2014

[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/189111

掲載情報

  • 日刊工業新聞(7月18日 23面)および日本経済新聞(7月19日夕刊 8面)に掲載されました。