2014年6月13日
小寺秀俊 工学研究科教授、横川隆司 同准教授、生田純也 元同大学院生らの研究グループは、昆隆英 法政大学生命科学部教授らと共同で、細胞内に存在するモータタンパク質による「分子綱引き」をおこなうナノシステムを開発しました(図)。
本研究成果は2014年6月13日に英国ネイチャー出版グループのオンライン科学誌「Scientific Reports」で公開されます。
研究者からのコメント
今回開発した「分子綱引き」のナノシステムを応用し、さまざまな細胞内の分子動態モデルを細胞外で提案していく予定です。これによって、細胞内における複雑な分子機構を個別に取り出して単純化することで、その機構解明に貢献できると考えています。
本研究は、マイクロ・ナノファブリケーション技術とモータタンパク質をいかに融合するかという取り組みから始まりました。このため、工学的な視点からは、今回の成果により確立したモータタンパク質を配置したり運動制御したりする技術を用いて、新たな分子ナノシステムの開発も目指します。
概要
細胞内に存在するキネシンやダイニンは、微小管に沿って移動するモータタンパク質であり、細胞内小器官の輸送や細胞分裂の際の紡錘体形成や染色体分離に重要な役割を果たしています。これまでに、1分子生物物理学の発展により、モータタンパク質の1分子における発生力や運動機構が明らかになってきました。しかし、実際の細胞内では複数種かつ複数個のモータタンパク質が協同的にその機能を発現しており、数10個のモータタンパク質分子がチームとして働く際の各分子の挙動は十分明らかになっていません。このため、細胞外において複数のモータタンパク質を制御性良く運動させてその挙動を解析するための分子系が必要とされてきました。
本研究では、細胞骨格である微小管上を逆方向に運動するキネシンとダイニンモータタンパク質を、マイクロ・ナノファブリケーション技術により、基板上へ選択的に固定することで、数10~100分子のキネシンチームとダイニンチームが微小管を引き合う「分子綱引き」を可能にしました。これにより、キネシンは負荷に対して弱く(あきらめやすく)、ダイニンは負荷に対して粘り強いという1分子の特性が、モータタンパク質がチームとして働く際にも保存されていることが明らかになりました。
この技術により、複数のモータタンパク質が関与する細胞内物質輸送や数100個のモータタンパク質が染色体を引き合う有糸分裂の仕組みを細胞外で調べることが可能になり、その理解に資することが期待されます。また、モータタンパク質を細胞外で自在に扱うことにより、工学的な分子操作ナノシステムの創製も期待されます。
本研究で確立した「分子綱引き」ナノシステムの概念図
詳しい研究内容について
「分子綱引き」をおこなうナノシステムを開発 -細胞分裂や細胞内物質輸送の仕組みを知るカギに-
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.1038/srep05281
[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/188352
Junya Ikuta, Nagendra K. Kamisetty, Hirofumi Shintaku, Hidetoshi Kotera, Takahide Kon & Ryuji Yokokawa
"Tug-of-war of microtubule filaments at the boundary of a kinesin- and dynein-patterned surface"
Scientific Reports 4, Article number: 5281 Published 13 June 2014
掲載情報
- 日刊工業新聞(6月17日 24面)に掲載されました。