2014年3月24日
山田裕貴 学際融合教育研究推進センター触媒・電池元素戦略研究拠点ユニット拠点助教(東京大学工学系研究科助教)、山田淳夫 同拠点教授(東京大学工学系研究科教授)、袖山慶太郎 同特定研究員、館山佳尚 同拠点准教授(物質・材料研究機構グループリーダー)らのグループは、リチウムイオン電池の急速充電、高電圧作動を可能にする新規な電解液を開発しました。
この研究成果は、米国化学会誌「Journal of the American Chemical Society」(2014年3月24日米国東部時間0時)のオンライン版に掲載されました。
研究者からのコメント
二次電池の構成材料のうち、これまで大きな技術革新のなかった電解液に着目し、二次電池の大幅な高性能化に資するような新世代電解液系の開拓をテーマとして研究を行ってきました。その中で発見した「超高濃度電解液」は既存電解液材料を大きく超える性能を有し、極めて短時間での急速充電が可能な5V級の高電圧リチウムイオン電池の開発が加速すると期待されます。
今後は、実用スケールの二次電池における評価を行い、実用化を加速させていくとともに、さらなる高性能二次電池の実現のため、より高機能な電解液材料の探索を行っていく予定です。加えて、本研究で提唱した「超高濃度溶液」が秘める新機能の開拓を行うとともに、スーパーコンピュータ「京」を利用した機能発現メカニズムの追究を引き続き行い、「超高濃度溶液」の新学問領域としての確立を目指します。
ポイント
- リチウムイオン電池の急速充電、高電圧作動を可能にする新規な電解液を開発し、スーパーコンピュータ「京」を用いて作動メカニズムを解明
- この電解液は、超高濃度のリチウムイオンを含む「濃い液体」であり、「高濃度=反応が遅く電解液に適さない」という通説を覆した。
- この電解液を応用することで、従来の3分の1以下の時間での急速充電や電気自動車等への実用に耐えうる高電圧で作動するリチウムイオン電池が実現可能となる。
概要
電気を蓄え、必要なときに取り出すことのできる二次電池は、電気自動車やスマートグリッドなど省エネルギー社会実現の鍵を握る中核技術です。現状、最も優れた二次電池はリチウムイオン電池ですが、充電時間の短縮や高電圧作動が喫緊の課題となっています。特にリチウムイオン電池を構成する要素のうち、電解液の材料は20年以上も、ほぼ同一組成のものが用いられており、革新的な電解液材料を開発することができれば、リチウムイオン電池の飛躍的な性能向上も現実性を帯びます。
今回、研究グループが開発したリチウムイオン電池の急速充電、高電圧作動を可能にする新規の電解液は、従来の4倍以上となる極めて高い濃度のリチウムイオンを含む「濃い液体」であり、既存の電解液にはない「高速反応」と「高い分解耐性」という新機能を有します。また、この新規な電解液の機能は、特殊な溶液構造によるものであることをスーパーコンピュータ「京」を用いたシミュレーションにより明らかにしました。
本研究により開発した電解液は、既存材料の性能を大きく上回る新世代の電解液としてリチウムイオン電池に応用でき、従来の3分の1以下の時間で急速充電が可能となるとともに、現状の3.7Vを超え、電気自動車やスマートグリッドへの実用に耐えうる5V級の高電圧作動への道を拓くものです。
研究成果のイメージ図
電解液(右側)から負極(左側)へリチウムイオン(橙色球)が移動することで、リチウムイオン電池の充電が行われる。この反応には電解液として、エチレンカーボネート溶媒が必須とされていたが、本研究の成果により「濃い電解液」では多種多様な溶媒が使用可能となった。本研究で開発した電解液では、この反応が極めて高速で起こるため、従来の1/3の時間での急速充電が達成できる。
詳しい研究内容について
濃い液体が秘める新機能を発見、新世代の電解液へ -電池の充電時間が1/3以下に-
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.1021/ja412807w
Yuki Yamada, Keizo Furukawa, Keitaro Sodeyama, Keisuke Kikuchi, Makoto Yaegashi, Yoshitaka Tateyama, and Atsuo Yamada
"Unusual Stability of Acetonitrile-Based Superconcentrated Electrolytes for Fast-Charging Lithium-Ion Batteries"
Journal of the American Chemical Society 136 (13), pp 5039–5046
Published: March 23, 2014
掲載情報
- 産経新聞(3月30日東京版 3面)および日刊工業新聞(3月31日 26面)に掲載されました。