このたび、岩井一宏 医学研究科教授が第111回(令和3年)日本学士院賞を受賞することになりました。日本学士院賞は、学術上特に優れた研究業績に対して贈られるもので、日本の学術賞としては最も権威ある賞です。
岩井一宏 医学研究科教授
岩井一宏 教授は、平成4年に京都大学大学院医学研究科を修了し、医学博士の学位を取得しました。その後、京都大学医学部附属免疫研究施設助手、米国国立保健研究所(NIH)研究員、京都大学大学院医学研究科助手、助教授、同大学大学院生命科学研究科助教授、大阪市立大学大学院医学研究科教授、大阪大学大学院生命機能研究科・大学院医学系研究科教授を経て、平成24年に京都大学大学院医学研究科教授に就任、細胞機能制御学分野を担当し、現在に至っています。
今回の日本学士院賞の研究題目は、「直鎖状ユビキチン鎖の発見とその炎症応答制御に関する研究」です。岩井教授は、新奇な直鎖状ユビキチン鎖と特異的な生成酵素であるLUBAC(ルーバック)を発見してその機能、疾患への関与を解明しました。ユビキチンは生命現象を担う機能分子であるタンパク質を分解に導くシグナルであると考えられていましたが、岩井教授はまず、LUBACによって生成される直鎖状ユビキチン鎖がタンパク質分解ではなく、炎症応答制御をはじめとして、細胞生存などの多くの生命現象に中核的に寄与することを解明しました。さらに、直鎖状ユビキチン鎖の生成減弱が免疫不全を伴う自己炎症性症候群、その生成亢進がB細胞リンパ腫の原因となることも明らかにしました。加えて、多くの病原微生物が宿主に感染する際にはLUBACを抑制することなども判明しています。岩井教授の研究はユビキチン、免疫応答制御機構の分野に新機軸を提供したのみならず、感染症、悪性腫瘍、免疫疾患の治療など、医学に新しい可能性を提示するものです。
なお、岩井教授の卓越した業績に対し、平成27年日本医師会医学賞、同29年持田記念学術賞、令和元年武田医学賞、同2年上原賞など、多数の賞が授与されています。