概略
患者は、60歳代女性で、他の病院で摘出不可能と判断された巨大な胸部肉腫の相談に医学部附属病院呼吸器外科に来られました。腫瘍は、両肺・心臓・食道・肝臓に取り囲まれた位置にあり、下大静脈を取り囲み、肝静脈の近くに及んでいました。そこで、呼吸器外科、心臓血管外科、肝胆膵移植外科、消化管外科、麻酔科がチームを作って、摘出方法について検討しました。
手術は、7月下旬に医学部附属病院にて行いました。上記5科が協力して11時間に及ぶ手術となりました。下大静脈、右肺の一部、心膜の一部、横隔膜の一部、とともに腫瘍を完全に切除することができました。人工心肺を使用して、肝臓への血流を約20分間遮断し、下大静脈を人工血管で置換しました。
患者は、順調に回復し、8月20日に退院しました。
本手術の意義
このような巨大な胸部肉腫が下大静脈周囲に発生することは極めてまれです。病理学的には、平滑筋肉腫という腫瘍で、これまで報告されてきた胸部平滑筋肉腫としては、最も大きな腫瘍でした。この部位は、肺、心臓、食道、横隔膜、肝臓などの複数臓器で取り囲まれた位置にあり、単科での摘出術は不可能です。今回の摘出術は、呼吸器外科、心臓血管外科、肝胆膵移植外科、消化管外科、麻酔科の5科が協力して行うことで初めて可能となりました。複数科での協力による手術はしばしばありますが、5科の協力による手術は、大変まれです。
患者のコメント
最初の病院では、「当院では、手術はできない」と判断されましたが、手術の可能性を追求して、京大病院を紹介してくださいました。京大病院でも難しい手術になるといわれましたが、多くの専門家の先生が何度も集まって相談してくださり、作戦を立ててくださったと聞いています。最終的に、京大病院の知恵と技術を結集して、腫瘍を完全にとりきっていただきました。わたしは、本当に幸せ者だと思います。京大病院のみなさんに、心から感謝しています。