監事 : 原 潔、佐伯 照道
1. 主な監査項目
(1) 産学連携、知的財産管理への組織的取組状況
(2) 産学連携、知財管理に係る財務状況
2. 監査対象部局等
国際イノベーション機構、国際融合創造センター、研究推進部及び医学研究科
3. 監査の方法
(1) 平成19年1月17日に医学研究科で「医学領域」産学連携推進副機構長、事務部長等の担当者と部局における産学連携、知財管理への取組状況の現状と課題について面談した。
(2) 平成19年1月19日に国際イノベーション機構長、研究推進部長等の担当者と全学的な産学連携、知財管理について面談した。
(3) 平成19年1月29日に国際融合創造センター長と産学連携について面談した。
(4) 産学連携、知財管理に関する既存資料の調査
4. 監査の結果
4. 1 全学的な取組状況
(1)これまでの経緯と組織
大学における産学連携、知財管理に関する活動は、国の政策として法整備と各種支援制度が、急速に拡充・進展してきた。京都大学における組織的な取組みもこれらの動きに対応・連携しつつ、組織が整備されてきた。同時に活動の基本方針として2003年12月に「知的財産ポリシー」、2004年3月に「産学官連携ポリシー」を定め、2007年4月に産学連携に係る利益相反ポリシーを定める予定である。
1996年のベンチャー・ビジネス・ラボラトリーが設置されたのに続いて、2001年の国際融合創造センター、2003年の知的財産企画室、2005年にスーパー連携室が設置された。また事務組織として研究・国際部(2006年に研究推進部に改組)が整備されてきた。さらにこうした産学連携に係る諸組織を 一元化して、全学的な産学連携活動を推進し、支援する組織として国際イノベーション機構が2005年に設立された。同機構には、国際融合創造センターの融合部門が産学官連携推進部として加わり、ベンチャー・ビジネス・ラボラトリー、知的財産部、スーパー連携室の4つのサブ組織から構成されている。事務機能として研究推進部の産学官連携課が知的財産部及び産学官連携推進部の事務の一部を、工学研究科事務部がベンチャー・ビジネス・ラボラトリー及び産学官連携推進部の事務を一部分担している。
また国際イノベーション機構と連携しつつ、医学領域(医学、薬学、生命科学、ウイルス研等)を対象にした「医学領域」産学連携推進機構が2004年に設置された。
(2)活動状況、経費、人員
具体的な活動状況は、2005年度でみると
- 特許出願件数、国内329件、海外214件
- 技術移転収入約2200万円
- 機構内の共同研究・受託研究の成約20件、5. 1億円(全学で共同研究約500件、受託研究約700件、計115億円)
- 研究成果の公表
- 学内外で広報・啓蒙活動
- 技術相談活動等を活発に行っている。
また、これまで65社の京大発のベンチャー企業が設立された。
こうした知的財産及び産学連携推進に係る経費は、収入として全学の共同研究費契約のオーバーヘッド10%(年間約1. 4億円)、各種プロジェクト経費及びライセンス料等の合計約3. 4億円、支出として特許費用約1. 7億円、人件費1. 1億円(定員内教職員経費は除く)、事務費等約0. 6億円を費やしている。この他、国際融合創造センター及びベンチャー・ビジネス・ラボラトリーに配分される運営費交付金を活動経費、施設維持管理等に費やしている。機構業務 に関わる人員は、定員内教員9名、任期付研究員15名、パートタイム職員等26名の合計50名及び研究推進部産学官連携課職員8名(事務所補佐員3名)で運営されている。
機構内の組織別には、産学官連携推進部に国際融合創造センターの融合部門(教授4名、助教授2名)が機構に加わっているが、知的財産部は、任期付研究員15名、事務補佐員9名、顧問契約者4名、派遣職員3名で構成され、本部・吉田拠点、桂、宇治、医学領域、情報メディアの各拠点に配置されているが、定員化された教職員はいない。ベンチャー・ビジネス・ラボラトリーには期限付き定員による助教授枠1名(平成21年度まで)、講師枠1名、助手枠1名(平成19年度まで)が配置されている。
このように国際イノベーション機構は、組織、人員、資金共に複合的であり、組織運営が一元的に行われる状況にない。また機構長が知的財産部、ベンチャー・ビジネス・ラボラトリー、スーパー連携室の長を兼ねており、組織の継続性、安定性、内部統制の観点から課題がある。これには、国のプロジェクト的な施策に伴って整備・拡大が時限的に実施されてきたことが背景としてある。また組織名称について学内では理解されているとしても学外からは、国際イノベーション機構と国際融合創造センターの違いとその関係、機構内組織の各部門の名称も産学官連携推進部、スーパー連携室、産学官連携課等について機能分担をイメージしにくい。
4. 2 「医学領域」産学連携推進機構
部局を越えて医学領域における知財の発掘・集積、技術移転、ベンチャー設立・運営するために「医学領域」産学連携推進機構が設立されている。同機構内には 産学連携オフィスとインキュベーション・プラザがある。同機構は、(社)芝蘭会との間で産学情報交流事業を連携して活動している。活動しているスタッフは、国際イノベーション機構知的財産部のサブ拠点として5名(研究員2名、職員3名)、機構職員として3名(研究員1名、職員2名)、産学情報交流事業のために芝蘭会から支援された3名(客員助教授1名、研究員1名、職員1名)が配置されている。さらに医学研究科社会健康医学専攻知的財産経営学コース(科学技術振興調整経費によるプロジェクト)の教員(教授1名、助教授1名、講師1名、助手1名)及び職員2名が教育業務、制度設計支援等を行っている。要している経費は、国際イノベーション機構知的財産本部整備事業費、科学技術振興調整費、外部資金及び部局経費で行われており、総額は、国際イノベーション機構負担分を除いて年間約1億円である。
具体的な活動として、共同研究の仲介、研究成果物の移転に伴う契約及び特許申請等であるが、そのなかで成果移転に伴う件数は、年間約400件(内、海外との契約が約300件)ある他、各種セミナー、人材育成、事業化支援等を行っている。
同機構は、HP上で積極的に情報発信を行っており、関係教員のシーズを公開している他、機構の機能と窓口を明示しており、外から見て分かりやすい構成になっている。部局又は複数部局間領域で行う産学連携推進組織の一つの先行モデルといえるが、一定部局への経費負担に偏りが見られる。また、国際イノベーション機構と同様に有期雇用教職員が多く、組織の継続性や数多い海外との契約業務に学内事務が対応できていない等の課題を抱えている。
5. 監査に基づく意見
(1) 産学連携推進組織の再編の必要性
京都大学産学官連携ポリシーにあるように窓口の一本化、オープン性や責任を明確にした全学的な支援・推進体制になっているかについて国際イノベーション機構、国際融合創造センター及び関連する事務組織の関係を見直し、組織内の業務、人事及び資金管理が一元的に行われるように再構築する必要がある。
産学連携に関わる組織は、研究活動のPDCAサイクルのうち特にC(検証、評価)、A(活用、見直し)の段階で機能する必要がある。そのために検討すべき点は、産業界とのリエゾン機能や知財管理機能を強化し、京都大学における広汎な学問領域と分散しているキャンパスに対応できるような組織化である。例えば医学領域で実施されているような学問分野別の拠点群を形成するのが適切でないか。また外から産学連携用のシーズが見えるように学問分野ごとの研究活動情報 研究データベース)を公表する仕組みを併せて検討する必要がある。そして知財管理等に伴う事務機能の共通部分は、一元化して効率化を目指す組織化を図るべきである。
(2) 産学連携推進のための基盤的人員と経費
現在、学内で産学連携推進に関わる教職員の多くが、有期雇用であり組織の安定性、責任体制、業務の継続性の観点から問題がある。少なくとも基盤となる人員と経費は、全学的組織として整備する必要がある。特に、平成20年3月には、知財本部整備事業費及びスーパー産学連携本部補助金が終了する予定であり、同種のプロジェクトが新たに設けられる可能性はあるものの、産学連携推進のための基盤部分の人員については、常勤教職員(いわゆる定員)を適正配置する必要がある。その際、自身の研究活動よりも産学連携に関する活動が必要となることから教員と職員の中間的な専門職として導入することを検討する必要がある。また経費は、現行の産学官連携推進経費(共同研究費の10%のオーバーヘッド分)や受託研究に伴う間接経費の一層の透明性と有効活用を図るべきである。
(3) 有期雇用教職員の処遇改善
産学連携に係る業務の多くの活動が有期雇用教職員で維持されている。経費の変動及び人事の流動性の観点から有期雇用教職員の雇用は不可欠であるが、その処遇は見直す必要がある。有期雇用教職員の月額報酬は、定員内教職員と同一の算定方式によるが、現行の退職金の算定方式は、短期雇用者にとって不利なものであり、産学連携等の専門職への年俸制の導入等、新たな人事制度の枠組みを検討するべきである。
(4)特許の取り扱い方式の見直し
京都大学の平成18年度までの特許の出願数は国内1095件、外国569件、その内、特許として現在保有している件数は、国内に82件、外国23件である。平成17年度の出願件数は、国内329件、外国214件である。
国内の特許出願・審査料等は、平成19年3月までは免除され、海外申請については科学技術振興機構から出願支援経費があるものの、その後の申請及び特許の維持については、法人負担になる。特許は、ある種の先行投資であるとはいえ、必要とする経費を勘案しつつ、法人として保有する特許を精選する仕組みを構築する必要がある。また特許に伴う紛争等のリスクについて予め検討しておく必要がある。