監事 : 原 潔、佐伯 照道
1. 主な監査項目
(1) 施設マネジメントへの組織的な取組み状況
(2) 施設利用実態調査システム(Net-FMシステム)の稼働状況
(3) 質の向上、スペースの有効活用、コスト削減への取組み状況
2. 監査対象部局等
施設・環境部及び農学研究科
3. 監査の方法
(1) 平成18年11月15日に施設・環境部で施設・環境部長、担当課長等と施設マネジメントに関する全学的な取組状況について面談した。
(2) 平成18年11月22日に農学研究科で研究科長、事務部長等と部局における施設マネジメントに関する取組状況について面談した。
(3) 施設マネジメントに関する既存の資料調査
4. 監査の結果
(1) 全学的な取組み体制
施設マネジメントは、スペース、クオリティ及びコストについて施設の効率的な活用のために、いわゆるPDCA(Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善))サイクルを実施することである。本学における施設管理は、使用している部局の権限と責任で実施されているので、部局毎の施設マネジメントと全学レベルの施設マネジメントが重層的に実施される体制になっている。スペースは、大学全体では、国立大学法人等建物基準面積算出表に基づく基準面積と大型機器設置等の加算面積によって必要面積が積算されている。京都大学の現有面積は、必要面積の約85%である。
京都大学では、役員会の諮問に応じるために施設整備委員会が設置され、建築物その他の施設の環境整備の方針等について全学的な検討を行い、同委員会のもとに各キャンパスと歴史的建築物及び町家キャンパスについて専門委員会が設置され具体的な検討・調査を行う体制になっている。同委員会では、これまで概算要求事項の選定の他に桂キャンパス整備に伴う吉田キャンパスの再配置計画の見直しや耐震化推進に取り組んできている。また、担当理事が既存施設の利用状況、問題点の把握について、現地で直接、使用者から意見を聞く試みを続けている。
全学の施設管理に関わる業務は、施設整備については、施設担当理事のもとで施設・環境部が担当し、固定資産としての管理は、財務担当理事のもとで契約・資産事務センターが担当している。
(2) スペース管理の現状
施設の利用状況を把握するために施設実態調査(Net-FM)システムが平成16年6月から導入されている。このシステムは、キャンパスを総合的・有機的に再配置するために国立学校施設実態調査のデータを基礎にして、施設利用者が利用状況を入力することによって施設管理データベースが作成される。利用情報の入力状況は、平成18年11月現在で41部局の内26部局が入力済みであるが、全面積でみると22.5%のデータしか入力されていない。2年半を経ても システムを構築した本来の目的である効率的な利用へ向けた検討・活用ができる状況に至っていないが、これは、施設マネジメントへの理解が不十分であると共に、システムの具体的な活用方法が明示されていないために利用者によるデータ入力が進んでいないのが一因である。
京都大学では、施設の再配置・有効利用に関する基本方針(平成12年6月建築委員会決定)として、新築、増築に伴って生みだされた面積の20%を全学共用スペースとして、プロジェクト研究等の他、教育・研究に利用することを定めている。これまでその対象建物面積約18万m2のうち約6.3万m2(35%)が全学共用スペースとされている。その約7割が共通スペースとして、また3割が競争的スペースに区分されている。桂インテックセンターのように計画段階から共同研究スペースを設け、そのための利用規程が整備されている施設もあるが、全学的な全学共用スペースに関する利用規程はなく、多くの全学共用スペースは、部局内、複数部局内で利用されているが、その利用状況は公表されていない。
(3) クオリティ管理の現状
施設の安心・安全性向上の観点から耐震補強を中心として地震防災検討会で耐震化推進方針が策定され、補強の必要性の緊急度判定に基づいて整備順位と当面の安全確保の予防対策・避難対策が策定された。また、アスベスト対策は、全学で調査が実施され体育館内の除去をはじめ、飛散の恐れのない建物内についても順次、除去作業が進められている。
キャンパスアメニティ向上計画が策定され百万遍門・幹線道路の整備が行われた。今後も、本部構内全域を対象にしたキャンパス環境を維持するための美化計画が策定中である。
施設の維持管理は、使用する各部局が実施することを原則にして実施されているが、部局の予算規模、事務機能等の制約から維持管理状況について部局間格差がある。
(4) コスト管理の現状
スペースの確保、クオリティの改善には多額の費用を必要とする。建築コストを軽減し、質の高い建物を建設するために、PFI事業による整備や総合評価落札制度が導入されているが、その費用対効果について、今後の維持管理状況を踏まえて有効性を立証していくことが求められる。
点検・保守・清掃等の施設の維持管理のために運営費交付金の中に1m2あたり1,110円―1,440円/年、劣化防止費として1m2あたり500円/年が部局予算に積算されている。PFI方式の場合には、契約に維持管理経費が含まれているので運営費交付金には積算されていない。例えば農学部総合館のPFI方式の場合には、1m2あたり2,400円/年をかけている一方で、部局で施設の維持管理のために使用している費用は、積算分の半分以下しか使用されていない事例があった。
(5) 部局における施設マネジメントの実施状況
部局における施設マネジメントの例として今回の監査では農学研究科における実施状況を監査した。
農学研究科では、農学部総合館の改修がPFI方式によって進行中で、現在、6期計画の第3期改修中である。PFI方式は、改修後の清掃等の維持管理費用も含まれているので部局からみて負担が軽減できているが、改修に伴うドラフトチャンバー等の付帯設備の一部が含まれておらず、同じ部屋の中でPFI対象の設備と非対象の設備が混在するため、維持管理を複雑にしている。改修の進捗に応じて毎年、一時移転をしていることもありNet-FMシステムへの入力は着手されていない。
改修建物以外の建物(旧農業簿記研究施設等)の老朽化が著しいため部局で補修しており、施設整備費でアスベスト除去を進めている。
農学・生命科学研究棟は、新設建物であり、20%を全学共同利用スペースとして利用することになっているが、現在、環境制御温室として農学・生命科学共用の恒久的設備が設置され、利用されている。こうした複数の部局が利用する建物の維持管理については、共通スペースの利用も含めて両部局で組織的な対応を検討中である。また宇治キャパスに分散している農学研究科のスペースの吉田地区への統合、高槻の附属農場の移転等について部局で検討が進められている。
5. 監査に基づく意見
(1) 施設マネジメントへの共通理解
施設マネジメントが機能するには、使用している教育・研究・医療の現場でスペース、クオリティ、コストの視点から施設の現状における問題点を具体的に把握することが出発点である。それをもとに改善計画の立案、実行、評価、計画の見直しといわゆるPDCAサイクルを動かすことになる。
各部局の整備率(保有面積/必要面積)には、組織の新設・再編に伴って部局間で大きな格差があり、部局における施設管理が原則であっても、全学的な部局間の調整や再配分に取り組む必要がある。このため国立学校建物基準面積算出表に準じた必要面積の算出方式や加算面積の考え方及び必要面積を超えて使用する場合の負担方法について施設整備委員会で検討が開始されており、その成果が期待される。その際、こうした方針や加算面積の算定方法等の基本的な考え方について全学的な共通理解を事前に持つ必要がある。
現状調査のために導入されている施設実態調査(Net-FM)システムへの利用者入力が進んでいない現状について、利用目的が曖昧なこともその一因であるので、利用実態を踏まえて部局における研究室間のスペースの不均衡是正、施設の整備率を全学レベルで是正するのに活用する等を共通した理解として一層の活用を図る必要がある。
(2) 全学共用スペースの活用方法の見直し
全学共用スペースの約70%は、共通スペースとして複数部局が使用するスペースやラウンジ等の不特定の利用者に使用されている。残りは、競争的スペースとして、その建物を利用している部局内または部局間で一定のルールで利用者を決めている状況にある。
こうした全学共用スペースの利用については、全学で運用できるような仕組みとその規程を施設整備委員会等で検討する必要がある。
(3) 施設の維持管理方式の見直し
施設は、適切な点検・保守・清掃が実施されて質を維持することができるが、積算されている維持管理費が部局予算総枠の制約等のために、積算額がそのまま、施設維持に使用できないか、または使用されていない状況にある。維持管理は原則として部局で行うことになっているが、全学経費で行う維持管理との基準が明確にしにくいこと、複数部局が使用する建物が増加し、建物の一体的な維持管理が求められること、また施設維持費を効果的・効率的に使用するために、これまでの部局ごとの維持管理から一部または全部を全学的に維持管理する仕組みの有効性を検討する必要がある。
(4) 施設マネジメントに係る内部統制の改善
全学的な施設マネジメントは、総長の付託の下に施設担当の理事を置き、事務組織として施設・環境部が実務を担当している。さらに各固定資産管理単位(部局)に管理者を置いて、担当施設の管理と有効活用をする責任と権限を付託している。こうした責任と権限を委譲することは、業務の効率化と迅速性を高めるためにも施設マネジメントに限らず必要な機能である。しかしながら、経営者レベル(担当理事、役員会)、管理者レベル(部局長)、担当者レベル(施設・環境 部、使用者)間で相互に情報の共有、モニタリング活動が十分でないため、部局内の施設や全学共用スペースの利用状況、維持管理の実施状況や課題が十分把握されておらず、その改善に向けた方針や作業が適切に部局や役員レベルに伝わっていない状況が見られる。
京都大学会計職務権限規程でも決裁権限を下位者に委譲しても上位者の全般的な責任は免れないとし、権限を委譲された者は行使した結果について委譲者に報告する必要があるとしている。施設管理業務に関して業務の適正確保、内部統制の観点から全学的な施設マネジメントが各レベルで一元的に機能するように、各レベル間で一層の情報の共有とコミュニケーション、モニタリング活動が必要である。