監事 : 原 潔、佐伯 照道
1. 主な監査項目
(1) 環境マネージメントへの組織的な取組状況
(2) 廃棄物、エネルギー消費、汚水、汚染物質等の環境影響要素の管理状況
2. 監査の方法
(1) 平成18年9月7日に環境安全保健機構長、施設・環境部長等の担当者と全学的な取組みの現状と課題について面談した。
(2) 平成18年9月20日に宇治キャンパスで化学研究所長、宇治地区事務部長等の担当者と宇治キャンパスにおける取組状況について面談した。
(3) 両日、本部棟、文学研究科及び宇治キャンパスにおける廃棄物処理の実状について実地調査した。
(4) 環境報告書等の環境保全に関する既存資料の調査
3. 監査の結果
(1) 組織的な取組みの現状
- 環境報告書の発刊
京都大学は、平成14年2月に、環境憲章を制定し、「・・大学活動のすべてにおいて環境に配慮し、大学の社会的責務として環境負荷の低減と環境汚染の防止に努める・・・」ことを基本理念として、環境マネージメントシステムの確立を宣言している。それに基づく環境管理活動の成果は、2006年度京都大学環境 報告書として本年9月に公表された。本報告書は、環境・安全・衛生委員会のもとにワーキンググループ及びステークホルダー委員会が組織されて作成されたものである。京都大学として、初めて全学的な視点から環境影響要素の現状データの把握が詳細に行われ、総長のトップコミットメントと共に各研究科長とのインタビューによって環境保全へ向けた教育・研究の推進方針が宣言されており、評価できる。ただ、環境改善のために達成しようとする数値目標は、現時点では設定されていないが、本報告書を出発点として環境マネージメントシステムの構築に向けて環境目標管理システム推進WGが9月に設置されたのでその迅速な活動を期待したい。 - 環境安全衛生に関する組織的活動
現在、全学的な環境安全衛生等に係る業務を実施する組織として、環境安全保健機構、環境保全センター、保健管理センター等の6つのセンター及び施設・環境部環境安全課等がある。業務内容を調査審議・連絡調整するために、環境・安全・衛生委員会の他、エネルギーマネージメント、保健衛生、放射性同位元素、組み替えDNA実験安全等の対象項目ごとに委員会、管理委員会及びそれらのもとに各種の専門部会等がある。その数は、委員会等が9つ、専門部会が8つあり、さらにいくつかの部会等の設置が予定されている。このことは、法的に設置が義務づけられている委員会の他、環境安全衛生に関連する分野の多様性に対応するために必要に応じて設置されてきている。
平成17年4月に、環境安全保健に係わる6つのセンターが行う全学支援業務を、一体的な管理体制の下で効率的かつ効果的に行うことによって、全学の環境安全衛生活動を推進するために、環境安全保健機構が発足した。環境安全保健機構は、啓発活動、連絡調整を主な業務として、研修会、啓蒙活動等の活動をしており、施設・環境部環境安全課が、業務を担当している。ただ同課は、組織上は機構内の事務組織ではなく、また環境管理の中核である環境保全センターを含めて 6つのセンターは機構の業務を支援する立場であり、その事務部門は、センター毎に分散している。このため環境安全保健機構は、支援をする組織の集まりであり、機構長とこれらのセンターや事務組織との関係における責任・権限が曖昧な状況にある。また環境・安全・衛生委員会と環境安全保健機構との関係・役割分担もやや不明確である。環境安全保健機構の設置目的である一体的な環境安全衛生業務が出来る実施体制になっているとは言い難い。
(2) 省エネルギーへの取組み
全学的な省エネルギーのために、エネルギーマネージメント委員会が設置され、エネルギー管理者を部局等に配置してパトロール、啓蒙活動が行われている。その成果は、面積あたりの消費量が前年比2.8%減少させているが、一人当たりの消費量で見ると微増している。
(3) 排出水・廃棄物の管理状況
- 排出水処理
排出水・廃棄物管理については京都大学排出水・廃棄物管理等規程に基づいて、環境・安全・衛生委員会が、基本的方策の審議及び部局間の調整を行い、発生源責任、発生源処理を原則にして部局長の行うべき排出水・廃棄物管理事項を定めている。実験廃液の処理については環境保全センターを設置して集中処理している他、一部を外部委託して実施している。実験系排水は、環境保全センター、宇治キャンパス及び桂キャンパスの各集中処理施設で常時モニターしながら処理されているが、生活排水は、除害設備のある施設では、週1回モニターがされている。その結果によると京都大学生協等が運営する食堂からの排水に下水道法で定める水質基準を超えるノルマルヘキサン抽出物質(油分未処理)が検出される状況が年に数回生じている。また宇治キャンパスではそのモニターがされていない。食堂からの排水処理は、除害施設の改善と残留油分の拭き取りの徹底によって2002年度の検出件数に比べて2005年度には約1割にまで大幅に減少している。 - 廃棄物処理
生活系廃棄物(紙、プラスチック等)は、再利用できるものとできないものに分別して、学外で処理されている。実験系廃棄物及び特別管理産業廃棄物も学外処理されており、いずれの廃棄物も委託契約にもとづいて、マニフェスト(産業廃棄物管理票)を交付し、最終処分まで排出者の責任を果たす体制になっている。廃棄物の量は、生活系、実験系共に、ここ数年、増加傾向にある。なお、医療系廃棄物は、学内で焼却し、無害化してから学外に搬出している。
建物等における吹きつけアスベストについては除去、飛散防止、入室禁止等の安全対策が全学的に実施された。また廃PCBは適切に保管されている。
4. 監査に基づく意見
環境マネージメントに関して、環境安全保健機構、施設・環境部、各部局で組織的な取組が行われているが、現状の取組状況について次のような課題がある。
(1) 環境安全保健機構における実施機能の強化
環境保全は、発生源における処理と責任が重要であり、この原則に基づいて、京都大学における環境対策が実施されてきた。しかし一方で、京都大学環境憲章で宣言しているように、大学全体で環境管理への積極的な取組みをし、その成果を環境報告書として公表することが求められている。この意味から全学組織として 環境安全保健機構が設立された趣旨は大きい。しかしながら京都大学独自の環境管理システムを全学的に実効のあるものとして実施するには、環境安全保健機構の当初の設置目的である啓発活動・連絡調整に加えて、環境管理システムの確立・維持を業務に加えることを検討する必要がある。その際、環境・安全・衛生委員会との関係の見直し、事務組織・人員の充実、諸委員会・専門部会の整理再編、各センターとの関係の見直しなどによって環境安全保健機構の業務実施機能を強化することを検討することが求められる。
(2) 環境マネージメントの目標設定、実施組織の一元化と環境監査の必要性
環境目標管理システム推進WGが設置され、環境影響要素毎の達成目標が近く設定されると期待されるが、同時に環境マネージメントを実施する組織体制の一元化が求められる。特に、環境マネージメントに関連の深い、環境・安全・衛生委員会とエネルギーマネージメント委員会は、統合も含めて一体的な運営が求められる。
今後、環境マネージメントの視点からどの主体で、どのように達成していくかを企画し、実施する組織の整備と共に、どれだけ目標が達成されているかをモニターして、実施主体にフィードバックする役割を持つ環境監査機能の整備が併せて必要である。
(3) 排水汚染物質への早期の対応
食堂等からの排水に一時的に水質基準を超える場合が年に数回検出され、その都度、グリーストラップや除害設備タンク等の清掃が行われているが、なお断続して発生していることから除害設備の改善・強化を含めて早期に対応するべきである。併せて学内の排水路マップを常に最新のものに整備して、水質基準を超えた排水に迅速に対応できる体制が求められる。
なお、生協食堂からの排水施設の維持管理、保守点検、整備清掃については、京都大学と京都大学生協との間で締結された福利厚生施設業務委託契約書に付帯する覚え書きによって同生協の負担で実施することが明記されている。したがって宇治キャンパスにおいても生協に対して排水モニターを実施し、その報告を求める必要がある。また桂キャンパスでは、PFI契約に含めて実施され、生協によるモニターは実施されていない。本学として責任体制を明確にするためにも各キャンパスにおける食堂からの排水について京都大学生協との連携を密にして排水管理の徹底を求めることが必要である。
(4) 環境対応キャンパスへの計画的な研修と投資
大学全体として環境保全機能を高めるためには、教職員、学生が、環境保全へ向けて共通認識を持って3R(リサイクル、リユース、リデュース)の行動をすることが求められる。そのためには、今後も啓蒙活動を継続して推進すると共に、建物の断熱強化、省エネ機器や節電のための人感センサーの導入など省資源への計画的な投資が必要である。