成宮 周 教授が恩賜賞・日本学士院賞を受賞 (2006年7月3日)

成宮 周 教授が恩賜賞・日本学士院賞を受賞 (2006年7月3日)

成宮 周 教授

成宮教授は、昭和24年滋賀県生まれ、昭和48年京都大学医学部を卒業、昭和54年本学大学院医学研究科博士課程を終え、英国ウエルカム研究所研究員として2年間研究に従事しました。昭和56年本学医学部医化学第一講座の助手として採用され、昭和63年本学薬理学第一講座の助教授を経て、平成4年本学薬理学第二講座の教授となりました。平成7年医学部大学院化に伴い、同大学院医学研究科神経細胞薬理学講座教授となり、現在に至っています。

成宮教授の今回受賞の対象となった業績は、「プロスタグランジン受容体の研究」です。プロスタグランジンは、体内で刺激に応じて合成され、生体機能の調節を行っている脂肪酸由来の一群の物質です。プロスタグランジンには、炎症、発熱、痛み、生殖、発ガンなど、多彩な作用がありますが、この物質が、どのようにして多種多様な働きを発揮するかは、永らく不明でした。成宮教授の研究は、その作用機構を明らかにした独創性の高い研究です。

成宮教授は、まず、プロスタグランジンの1種であるトロンボキサンA2の受容体を同定、精製、クロン化し、プロスタグランジンに受容体が存在することを世界で最初に示しました。同教授は、さらに、クロン化トロンボキサンA2受容体の配列をもとに、スクリーニングを行い、プロスタグランジン受容体全8種の同定と構造決定をおこないました。ついで、これら8種のプロスタグランジン受容体の各々について遺伝子欠損マウスを作成し、また、各々の受容体に選択的な薬物の創製を促し、これらを駆使することにより、各受容体の生理的・病態生理的意義を解明しました。これにより、薬物の開発標的としてプロスタグランジン受容体を確立し、その臨床応用に途を拓きました。

成宮教授のこれら研究の意義と影響は以下の通りです。まず、第一の意義として、プロスタグランジンという脂肪酸由来の一群の生理活性物質に特異的な細胞膜受容体が存在することを示したことがあります。現在でこそ、脂肪由来の多くの活性物質にこのような受容体が存在することは周知の事となっていますが、これをはっきりとした形で示したことは大きな意義があります。第二の意義としてプロスタグランジンに対する全8種の受容体を分子実体として示したことです。これにより、プロスタグランジン作用を受容体をもとに理解することが可能になりました。第三の意義は、遺伝子欠損マウスを用いた体系的な解析により、個々のプロスタグランジン受容体の生理、病態生理での役割を明らかにしたことです。これにより、炎症、発熱、痛み、生殖、発ガンなどで働くプロスタグランジン受容体の種類とその機構が明らかになっただけでなく、これまで想定されていなかったプロスタグランジンのアレルギーや免疫、ストレス行動などでの働きが明らかになりました。後者の発見は従来のアスピリン様薬物を用いた研究では不可能であったことです。最後に、この研究によって薬物の開発標的としてプロスタグランジン受容体が確立でき、クローン化受容体を用いて開発された薬物がいくつか臨床試験に入っています。このように、同教授の研究は、プロスタグランジン作用の分子機構と個体での全体像を明らかにしてこの分野の基盤を形成したものであり、基礎医学、臨床医学のいずれにおいても大きな影響を及ぼしているもので、国際的に高く評価されています。

これら一連の研究に対して、平成10年大阪科学賞、平成11年武田医学賞、平成11年エルウィン・フォン・ベルツ賞、平成12年ジョバンニ・ロレンツィーニ財団ゴールド・メダル、平成14年上原賞、平成17年紫綬褒章など多数の賞が授与されました。