海洋天然物ヘロナミド類の抗真菌作用メカニズムを解明 -新しい創薬シーズと創薬標的の提案に期待-

海洋天然物ヘロナミド類の抗真菌作用メカニズムを解明 -新しい創薬シーズと創薬標的の提案に期待-

  2014年4月2日

 掛谷秀昭 薬学研究科教授、西村慎一 同助教、杉山龍介 同大学院生らの研究グループと、松森信明 大阪大学理学研究科准教授らの研究グループは、海洋由来の微生物が産生するヘロナミドという低分子化合物が細胞膜脂質を標的にして抗真菌活性を示すことを明らかにしました。

研究者からのコメント

左から掛谷教授、西村助教、杉山大学院生

 医療現場では抗真菌剤は古くから使われていますが、耐性菌の出現が常に問題になっており、新薬がなかなか登場しないことが問題になっています。一方で、生体膜は構成する分子の種類が多すぎることから、生物学においてもっとも解析が困難である構造体の一つです。

 本研究により、酵母に対して低濃度で生育阻害を示す海洋天然物ヘロナミドは既存薬とは異なる様式で細胞膜を標的にすることが明らかになったことで、新しい創薬シーズと創薬標的の提案が期待できると考えています。

概要

 細胞膜はタンパク質や糖質、脂質からなる構造体で、細胞の内外を仕切るバリアとしてだけでなく、細胞を形づくり、細胞外からの刺激を細胞内に伝えるなどの大切な機能を担っています。現在、生体膜を構成する脂質分子の役割を理解するために、二つの基本的な考え方が提唱されています。一つは流動モザイクモデル、もう一つは脂質ラフトモデルです。前者では脂質は膜に存在するタンパク質の溶媒としてとらえられ、後者では、脂質分子も集合体(脂質ラフト)を作るなどしてタンパク質の機能を制御したり、もしかするとそれ自身が機能を持つという考え方をします。しかし、遺伝学やX線結晶構造解析などの強力な解析手法のあるタンパク質に比べて、解析方法に乏しい膜脂質は知見に乏しいのが現状で、新しい解析手段が求められています。

 本研究では、生体膜脂質と相互作用することでユニークな現象を引き起こす化合物を天然資源から探索した結果、海洋由来の微生物である放線菌が産生するヘロナミドCと8-デオキシヘロナミドC(新規化合物)という化合物が特定の膜脂質を認識することを明らかにしました。

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図:(a)ヘロナミドCと8-デオキシヘロナミドCの化学構造(b)8-デオキシヘロナミドCが細胞壁異常を引き起こす様子。細胞壁の主成分である1,3-β-グルカンを蛍光染色すると、8-デオキシヘロナミドCを処理することによる細胞壁の異常合成が確認されます。(c)ヘロナミド類とセオネラミド類による細胞壁異常の推定メカニズム。ヘロナミドは飽和炭化水素鎖をもつリン脂質に、セオネラミドはエルゴステロールなどのステロールに結合します。その後のメカニズムの詳細はまだ未解明ですが、Rho1タンパク質やBgs1タンパク質の活性を通して、細胞壁の異常合成が起こります。

詳しい研究内容について

海洋天然物ヘロナミド類の抗真菌作用メカニズムを解明 -新しい創薬シーズと創薬標的の提案に期待-

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1021/ja500128u

Ryosuke Sugiyama, Shinichi Nishimura, Nobuaki Matsumori, Yuta Tsunematsu, Akira Hattori, and Hideaki Kakeya
"Structure and Biological Activity of 8-Deoxyheronamide C from a Marine-Derived Streptomyces sp.: Heronamides Target Saturated Hydrocarbon Chains in Lipid Membranes"
Journal of the American Chemical Society
Publication Date (Web): March 26, 2014

掲載情報

  • 日刊工業新聞(4月3日 19面)に掲載されました。