2014年3月19日
足立幾磨 霊長類研究所助教らの研究グループは、チンパンジーは概念メタファーのようなものをもっており、社会的な順位、あるいはさらに経験を統制された「物の順序」についても、空間になぞらえて処理することを明らかにしました。
このことは、少なくともある種の概念メタファーは、言語とともに共進化したのではなく、処理効率向上のために進化した(前適応)ものであり、それが後にヒトの言語に反映されていると考えられます。
本研究成果は、米国科学誌「PLOS ONE」誌に掲載されました。
足立助教
今回の研究は、すべての概念メタファーが言語とは無関係に生じたことを示しているわけではありません。おそらく概念メタファーのなかには、言語獲得後、2次的3次的に派生したものもあると考えられます。ヒトとヒト以外の動物のもつ概念メタファーの違いを描き出していくことは、ヒトの言語の独自性を明らかにするうえで重要な今後の研究の方向性となります。また、チンパンジーがこのような概念メタファーまで持ちながら言語を生み出さなかった原因はどこにあるのか、ヒトとの違いを浮き彫りにすることで、言語進化の道筋が再構築されると考えます。
概要
物価が「高騰・下落」する。「高い・低い」成績をおさめる。気分が「高揚する・落ち込む」。順位が「高い・低い」。こうした表現は、日常的に、かつさまざまな言語で広く用いられています。しかし、考えてみれば、「高い・低い」といったような本来空間を現す言葉を、空間とは関係のない情報を現すために使用するのは不思議なことです。この背景にあると考えられるのが、「概念メタファー」です。概念メタファーとは、ある概念領域を別の概念領域を用いてとらえることで、より良く理解することです。最初にあげた例の場合、物価、成績、気分、順位といった目に見えずはっきりと認識しにくい関係性を、空間になぞらえることで、よりわかりやすくとらえることができている、と言えます。
こうした概念メタファーは、言語と深く結びつき、言語とともに共進化をしてきたもので、ヒト独自の能力であると考えられてきました。
しかし、ヒトに最も近縁な種であるチンパンジーを被験体とし、二つの研究をおこなったところ、チンパンジーもまた概念メタファーのようなものをもっており、社会的な順位、またはさらに経験を統制された「物の順序」についても、空間になぞらえて処理することが示されました。こうした個体間関係などの「関係性」や「順序」といった目に見えない情報を、空間に当てはめて理解することは、情報処理の効率を上げるうえで有効であったため、言語とは無関係に、概念メタファーのような処理様式が進化したのだと考えられます。つまり、少なくともある種の概念メタファーは、言語とともに共進化したのではなく、処理効率向上のために進化した(前適応)ものであり、それが後にヒトの言語に反映されていると考えるのが適当であることがわかりました。
詳しい研究内容について
チンパンジーも「順序」を処理するときに空間になぞらえることをあきらかに -概念メタファー・言語の進化的基盤の解明に期待-
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.1371/journal.pone.0090373
Ikuma Adachi
"Spontaneous Spatial Mapping of Learned Sequence in Chimpanzees: Evidence for a SNARC-Like Effect"
PLOS ONE Volume 9 Issue 3: e90373 published 18 Mar 2014
掲載情報
- 京都新聞(5月24日 9面)、中日新聞(3月19日 1面)および日本経済新聞(3月25日 18面)に掲載されました。