2014年2月7日
矢野修一 農学研究科助教、大槻初音 同大学院生の研究グループは、攻撃法の異なる捕食者がハダニの対捕食防御を破綻させることを発見しました。
本成果はオランダの昆虫学専門誌「Entomologia Experimentalis et Applicata」誌のオンライン版に近日中に掲載されることになりました。
左から大槻大学院生、矢野助教
天敵を利用してハダニを抑える生物的防除は、化学農薬に代わる環境に優しい防除法として近年注目されています。
私たちの研究は、これまでハダニと無関係と思われていたアリが、カブリダニを利用したハダニの生物的防除の成否を大きく左右する可能性を、世界で初めて示しました。巨大な捕食圧を持ち何処にでもいるアリたちは、まだ私たちの知らないところで作物や庭の草木を守ってくれている可能性があります。気持ちが悪いからといってアリをむやみに退治するのは考えものかもしれません。
概要
勉強と部活、仕事とプライベートといった異なる活動の両立に悩んだ経験は誰しもあるはずです。食うか食われるかの攻防を繰り広げる生き物たちの場合は、両立の失敗が命取りになります。作物の葉を吸汁する害虫のカンザワハダニは、外敵から身を守るために葉の表面に張った網の中で暮らしています。アリなどのほとんどの捕食者はこの網のためにハダニに手が出せません。一方で、ハダニ食に専門化したカブリダニは網に侵入してハダニを襲いますが、ハダニもさるもので、網に侵入したカブリダニの気配を察知すると、網の外に逃げて攻撃を避けます。このように、ハダニは網を攻略できない捕食者とできる捕食者に個別には対処できますが、野外では複数種の捕食者が同居するのが常です。本研究グループは、網に籠もるか網を出るかという相容れないハダニの護身術は、両捕食者がいる場合に破綻すると予想しました。
これまでは、アリがハダニを捕食するかどうかを調べる有効な方法がありませんでしたが、本研究グループはハダニを閉じ込めた葉にアリだけが出入りする装置を使って、カブリダニを避けて網を出たハダニがアリに捕食されることを発見しました。ハダニがカブリダニを避けることを優先した理由は、ハダニにとっては雑食性のアリよりも、ハダニだけを狙うカブリダニの方が身近な脅威だからだと思われます。
ハダニは網に籠もることでアリの攻撃を防ぎ(左)、網の外に出ることでカブリダニの攻撃を防ぐ(右)。しかし両方の捕食者がいる時には、カブリダニから逃げたハダニはアリに食べられる(下)。
詳しい研究内容について
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.1111/eea.12164
Hatsune Otsuki & Shuichi Yano
"Functionally different predators break down antipredator defenses of spider mites"
Entomologia Experimentalis et Applicata, published online: 15 FEB 2014
掲載情報
- 日本経済新聞(2月18日 16面)に掲載されました。