赤色光受容体の機能を制御することで花を咲かせるタイミングを調節する新たな因子を発見

赤色光受容体の機能を制御することで花を咲かせるタイミングを調節する新たな因子を発見

2013年10月15日


左から荒木教授、長谷教授、遠藤助教

 遠藤求(えんどう もとむ) 生命科学研究科助教、荒木崇 同教授、長谷あきら 理学研究科教授らの研究グループは、植物の光受容体の機能を制御し、花成ホルモン(フロリゲン)の量を調節する新たな因子を発見しました。この発見により、作物の品種改良やバイオマス生産の増大への新たな道が拓かれました。

 この研究成果は、米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)の電子版(米国東海岸標準時10月14日)に掲載されました。

背景

 植物は赤色光や青色光の受容体を通して、季節や太陽のあたり具合といった環境情報を得ることで、最適なタイミングで花成を引き起こしています。赤色光は花成を抑制し、青色光は花成を促進していることが知られており、作物の成長促進や花成時期の制御にはこれらのシグナルをバランスよく制御することが不可欠です。これまで、青色光受容体はCOと呼ばれる転写因子の量を調節することで花成ホルモン(フロリゲン)の量を直接制御することが知られており、その仲介因子についても詳しい解析がなされていました。一方、赤色光受容体もCOの量を制御することは示されていましたが、そこにどんな因子が関わっているかは不明のままでした。

研究手法・成果

 研究グループは、植物の主要な赤色光受容体であるフィトクロムB(phyB)と直接相互作用する因子を探索し、新たにPHLを発見しました。解析の結果、このタンパク質を欠損する変異体では顕著な遅咲き表現型を示し、光受容体から花成ホルモンへのシグナル伝達経路に異常があることがわかりました(図1)。また、PHLは赤色光を感知するとphyBと相互作用するだけでなく、COとも相互作用し、phyB-PHL-COという複合体を形成していることが分かりました。このことにより、PHLはphyBからCOへのシグナル伝達を仲介する因子であることが示されました。これまでにゲノム情報が明らかになっている植物のうち、種子植物ではPHLが広く保存されていることから、今回発見したPHLが花成制御に重要な役割を担っている可能性も示されました。


図1:長日条件(16時間明期、8時間暗期)における発芽後3週間目における花成の様子。野生型では既に花が咲いているが、phl変異体では咲いていない。

波及効果

 これらの結果から、赤色光受容体がPHLを仲介してCOへとシグナルを伝えることで花成ホルモン(フロリゲン)の量を調節していることが明らかとなりました(図2)。今回の結果は、さまざまな作物や花卉の栽培・育種に応用可能な基盤を提供しています。たとえば、シロイヌナズナの属するアブラナ科植物であるダイコンやキャベツなどでは薹(とう)立ちが問題となっています。薹立ちは花成に伴い起こる現象の一つですので、花成を抑制することで薹立ちを抑制できると考えられます。一方で、花や種子に商品価値のある作物では、PHLの働きを調整することで、促成栽培が可能になるかもしれません。


図2:今回の論文で提唱されたモデル図。PHLは夕方に蓄積し、phyBの活性を阻害することでCOタンパク質の蓄積を促進することで花成を調節する。

用語解説

花成

栄養成長から生殖成長への成長相(発生プログラム)の切り換え個体として栄養成長していたものが生殖成長を始める移行過程

花成ホルモン(フロリゲン)

花成を誘導する植物ホルモンで、長い間その実態は不明であったが、近年になった同定された。

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1073/pnas.1310631110

Motomu Endo, Yoshiyasu Tanigawa, Tadashi Murakami, Takashi Araki, and Akira Nagatani
PHYTOCHROME-DEPENDENT LATE-FLOWERING accelerates flowering through physical interactions with phytochrome B and CONSTANS
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, published ahead of print October 14, 2013

 

  • 京都新聞(10月15日夕刊 12面)、日刊工業新聞(10月15日 21面)および日本経済新聞(10月15日夕刊 18面)に掲載されました。